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西 洋 哲 学 倫 理 学 史

(3)17, 18 世紀の哲学

1994年11月に逝去された三浦氏が大変思慮深く選ばれた17世紀の西洋の哲学史に残る重要な原語の哲学著作およびそれらに関する研究書のリストを作られ,懇切な解説もしておられるので,私は18世紀の哲学著作を幾つかつけ加えるのと,17・18世紀哲学・倫理学史で採り上げたい哲学者達の和訳を提供することにする.学生さんが購入されるのに(版の信頼性のみならず値段の点なども考慮して)適当だと思われる原語の哲学書が特にある場合はそれも挙げた.

哲学史は歴史であるよりも哲学の研究である.17・18世紀の重要な哲学者の中から幾人かを選び,その代表的著作の一部をクラスの皆に読んで頂き,彼等が考えた哲学的問題を彼等と共に考えて頂く.勿論,その問題が何であるかを捕える為には,先行した思考や同時代の哲学論議に親しむのみならず,社会的背景や他の分野での思考の変化などを理解することが必要なことが多々あるけれども,目的はその哲学者が考えた問題を捕えることであって,哲学者や同時代の哲学者が何を書いたか,後の解説者が,それについて何を書いたかをくわしく知ることではない.それだから,フランス語であれ英語であれ,ドイツ語であれ,原語でテキストを相当楽に読める方以外は,よい訳で先ず読んで,母国語で問題を考えて頂きたい.和訳に誤訳だとか,難解な造語など,問題がある場合は気付く限り指摘させて頂く.問題意識を持って,同時に部分的にでも原典に当って頂きたい.原典は注釈の対象でなく探究の対象として扱って頂きたい.解説書はせいぜい著作自体を読むことへの補佐の道具であり,完壁な(?)註釈書より,問題提起をしてくれるものの方が良いと思われる.

1) R.デカルトの場合,哲学的に一番重要なのは『省察』,Meditationes de Prima Philosophia(ラテン語)1641 Meditations Metaphysiques(フランス語)1647と思われる.原語で購入されたい方に便利なのは,ラテン語とフランス語が向い合った頁にある,J. M. Beyssade と M. Beyssade の共訳,Garnier-Flammarion社,1979.同時代人からの反論と,それに対するデカルトの応答,又デカルト自身が『省察』について書いた4つの書簡が入っている.和訳では,岩波文庫の落合訳は絶版で,所 雄章氏による飜訳が,方法叙説の訳と共に白水社1991から出ているのみである.デカルト著作集,白水社1973にも入っている.(研究書には,村上勝三著『デカルト形而上学の成立』,フランス語では J. M. Beyssade, La Philosophie premi ere de Descartes, J. L. Marion, Sur l'Ontologie Grise de Descartes, Vrin, 1975, 又,M. Foucault の『狂気の歴史』Folie et Deraison: Histoire de la folie a l'age classique, Plon (1961) 第二版1972第二章の最初の三頁,又それに対する J. Derrida の反論 L'Ecriture et la difference, Editions du Seuil, 1967,第二章 “Cogito et Histoire de la Folie",又それに対する,先に述べたFoucaultの本の第二版の長文の附記appendicesに於けるFoucaultの返答のやりとりは面白い.『哲学原理』Principia Philosophiae, 1646,は,桂 壽一訳が岩波文庫にある.『感情論』Les Passions de l'Ame, 1649 は野田又夫訳で中公文庫にある.

2) これは時に言及するだけだが,B.パスカルの『パンセ』,和訳は倫理学基本文献を参照されたい.原語では,全著作が一巻に収められたEdition du Seuil 版1963.正確で安価と故前田陽一先生も薦められたものでGouhierのよい序文もある.

3) T.ホッブス(原典については三浦氏の「文献」を参照されたい.)和訳 で は『リ ヴ ィ ア サ ン』1651 全4冊 水 田 洋 訳,岩 波 文 庫 第 一 版1952,第二版1992がある.これはよく思われている様に単に政治哲学と国家論の著作ではなく,人性論,言語論,倫理など広い領域にわたる面白いものである.残念ながら,他のホッブスの著作に和訳がない.色々な領域で論争を起こした,いきの良いものである.

4) B.スピノザ,著作はラテン語で書かれたので,和訳で読まれるのが好いと思う.(原語の著作,英訳,及び 釈書については三浦氏の「西洋哲学倫理学史(2)を参照されたい).

『エチカ(倫理学)』1617 上,下,畑中尚志訳,岩波文庫1951,第二版1975がまだ出版されている.和訳のない彼の優れた政治哲学の著作『政治論考』と『神学政治論考』の英訳は共に一冊に収められ,Dover社からペーパーバックで出ていて便利である.

5) G. W. ライプニッツの哲学の著作はラテン語で書かれたものとフランス語で書かれたものがあり(母国語のドイツ語で書いたのは 2, 3 の啓蒙書とプラトンの訳のみである)全著作は尨大でまだ全部は出版されたことがないが,既に出ているものについては三浦氏の基本文献表を参照されたい.一つつけ加えたいのは『人間知性新論』1711はフランス語で書かれたが,『人間知性論』1689-91のロックとの対話の形式を取っている為,英訳で読むポイントもあり,P. Remnant と J. Bennet 訳,Gambridge Univ. Press, 1982 は大変すぐれたもので幸いペーパーバックも出ている.又英訳の著作集では,三浦氏の薦められた大変優れた(そして高価な)L. Loemker 訳の外に,広い領域のものを堅実に訳した(安価な)R. Arlew と D. Garber 訳,Hackett, 1989 がペーパーバックである.

和訳は,一部が『ライプニッツ著作集』全十巻,工作舎,1988から漸次出版されている.良い選集だが,各巻\9000位のものなので,河野与一訳の岩波文庫の『単子論』と『形而上学序説』が現在絶版なのが残念だ.又『人間知性新論』米山 優訳,みすず書房1987は先に言った通り,ロックとの対話の形を取った大変面白い認識論及び存在論である.参考文献として拙著『ライプニッツの哲学,論理と言語を中心に』岩波書店,1982をあげておく.

6) G.ロックの原典については三浦氏の文献を参照されたい.和訳は,『人間知性論』上下二巻大槻春彦訳,岩波文庫 1972, 74 が絶版で中央公論社の『世界の名著』24として出ている.むらのある大著だが,第二巻27章の「同一性と差違について」(On Identity and Diversity)は有機体の同一性,人の同一性,人格の同一性などを論じ,問題提起をした重要なものである.研究書としては J. L. MacKie, Problems from Locke, Clarendon Press, Oxford 1976 堅実でしかも面白い.

7) D.ヒューム.カントやフッサールが彼に負うことを書いているのを見てもわかる通り,ヒュームは,単に経験主義の伝統を継承した思想家のみならず,多くの独創的な哲学者を刺激した,非常に洞察力と懐疑的精神をもつ人で,単純な経験論者ではない.主著,A Treatise of Human Nature, 1739 はOxfordの Clarendon Press で出版されている.和訳は大規春彦訳,岩波書店,上・下 1949, 51 は絶版で,『人性論』土岐邦夫訳『世界の名書』27中央公論社,1968がある.又,Enquiries Concerning the Human Understanding, 1748 もOxford, Clarendon Press から出ているが多くのペーパーバックも英米で出ている.和訳は『人間知性の研究・情念論』と二作品が一冊に,渡部峻明訳,哲書房1990で出ている.又,これらの作品の章を選んだ『奇蹟論,迷信論,自殺論』斎藤敏雄訳,法政大学出版局1985がある.解説書は Barry Stroud, Hume, Routledge & Kegan Paul, 1977 をあげておく.考えさせられる本である.

8) E.カント. 原語では権威あるプロシア・アカデミー版の全集の外,より手頃なペーパーバックが色々出ている.Felix Meiner 社から出ているのなど手頃である.長い解説もついている.授業では『純粋理性批判』Kritik der reinen Vernunft, 第一版1781,第二版1787のごく一部について,考えてみるだけになるが,この作品のみならずカントの作品の和訳は数多くある.購入するのに手頃な和訳を他の作品についてもあげておく.

これは上記の本と同じ領域の主題について書いたごく短い作品でカント自身による『純粋理性批判』第一版のガイドである.今は絶版らしい.

倫理学の領域では先ず

これは明確に独断的に書かれた短い作品である.次に多くの和訳のある

は取りあげず,

をあげる.これの宇都宮芳明訳,以文社1990は良いものである.

美学では

がある.

政治では

,がある.

カントの研究書は実に膨大な数にのぼり,世界中で2世紀の間つづいた一大産業であり,日本でも過去も,現代も出版されているものの数は夥しい.最近は,ドイツで出た研究書のみならず,英,米で出た研究書も相当和訳されている.人の哲学的背景により,助けられるもの,刺激されるものが相当異るのでここでは単行本の研究書を選んで薦めることを控え,むしろ,個別的なトピックについて書かれた短い論文などを,必要ならば,自分の思索の手助けに読まれることをおすすめし,研究書は忘れて,カントのテキストを先ず少しでもじっくり読むことをおすすめする.カント研究会で出している本には研究書のリストが掲載されている.

最後に西洋哲学史全体を通じて重要な原典のごく一部の和訳を一冊に集めたものとして便利なものに『哲学,原典資料集』,1993,東京大学出版会がある.(石黒ひで)