エンブレム・ブック
21.ガブリエル・ローレンハーゲン『厳選されたエンブレム集』

(アルンヘム、1611-13年)

 

Gabriel Rollenhagen, Nucleus Emblematum selectissimorum syoshi.jpg (1610 バイト)

   本書では、ラテン語詩人のガブリエル・ローレンハーゲンの2行連句と、当時を代表する銅版画家であったクリスペイン・デ・パッセ(Crispijn de Passe)父子による銅板画とが見事に融合している。一般的なエンブレム・ブックでは挿絵の上部に配置されることが多いモットーが、ここでは丸い銅版画の周囲を取り囲み、メダルのような効果を生み出している。挿絵のデザインの一部は、アルチャーティ(no.5)、ユニウス(no.10)、パラダン(no.34)、そしてイギリスのホィットニー(Geffrey Whitney)などのエンブレムに基づいている。また、本書の銅版はイギリスのジョージ・ウィザー(George Wither)が買い取り、『古今のエンブレム集』(A Collection of Emblemes, ancient and moderne, London, 1635)に再利用された。

   図[1]のエンブレムでは、「徳高き者たちは運に邪魔されない」という題辞のもと、運命の女神がまわす車輪に翻弄される人物がいる一方で、現世の変動に惑わされることなく堅実に天上へと昇ることが出来る賢者がいる。諦観により運命の変動を克服するという考えは、中世ではボエティウスの『哲学の慰め』にまで溯る一般的なものであったが、図[2]のエンブレムでは、よりルネサンス的な運命像が登場する。この挿絵では、中世の伝統的なアトリビュート(持物)である車輪は登場せず、変動の概念は、かわりに女神の足下の球により表現されている。この16世紀の運命の女神は帆布を持っているが、これは、順風を上手につかまえることが航海にとって必要であるように、移ろいやすい運命を上手に利用することが重要であることを表している。機械的な車輪の回転に一方的に翻弄される人間の姿ではなく、幸運を積極的につかまえようとする係わり方が暗示されている。前髪しかない頭髪は、元来「機会」の擬人像の特徴であり、吉兆の瞬間を人間が遅れずにとらえる必要を表している。海と帆船が背景に描かれていることも、運命の変動とともに、こうした好機をつかむという連想に基づく。左手に持っている三日月も海と結びつく。「運命は月にも似て」という題辞は、周期的な月の満ち欠け、潮の干満を連想させ、好機の到来をつかむ可能性を示している。

   図[3]のエンブレムは、コンパスの寓意により、題辞に示されている「運動と不変」を併せ持つ必要を指摘する。コンパスの軸足がぶれなければ完全な円が描けるように、静と動が協力して物事を成し遂げるのである。

その他の画像 : [4]

 

 

     

 

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