トップ早池峰神楽

9. 神舞とその思想


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こうした抽象度の高い文書を依り所に、早池峰山麓の修験者は彼らの持つ思想を神楽に反映させて、一般民衆を相手に山伏神楽を演じてきた。しかしながら、ただそれだけではなく早池峰の修験者たちは、観客である里の人々の願いに神楽を通して積極的に応えてきた。また彼らは同時に神楽に託して自分たちの呪力や験力を示したのである。「願はくは之を語りて平地人を戦慄せしめよ」と『遠野物語』の序文で柳田国男に言わせた程、早池峰の山々には山や山人の伝承が生きており、これを背景に早池峰の山伏たちは自分たちの験力を神楽に託して人々に誇示し祈祷を行なったのである。
 そのための一連の舞いが、祈祷の舞と呪法の舞からなる神舞なのである。

そこでこの神舞の主要なものを、まず、呪法の舞から紹介すると、飫憩木という榊と小竹葉を手草とした三人舞の「笹祓の舞」は、別名を「笹除りの舞」または「笹法りの舞」といい、雑々の罪穢を祓い浄め、悪神悪鬼を剣で切り祓う住居守護の神の舞いである。次に背に幣束を差した三人が舞う「水神舞」は、水を穢された竜神が崇ろうとしたが、天照大神にさとされ、そのはからいで大水神となったという水難除災の舞いである。「天王舞」は素戔鳴命が南海竜王のもとへの旅の途中、金持の巨旦将来に一夜の宿を乞うたがことわられ、その弟で貧乏な蘇民将来の家で夜を明かし、その御礼に魔よけの茅の輪と疫病除けの呪文の守札を贈ったという疫病除災の舞いである。「普勝の舞(写真)」では普勝が手剣を振って諸々の邪悪を切り祓う。別名を「三人くぐりっこ舞」という「手剣の舞」は邪悪を祓う三人の大荒神の除災の舞いである。これらの祓いや鎮めを目的とした呪法の神舞では、九字、印相、真言や呪詞など呪術的な祈祷の所作が数多く含まれている。

水神舞 普勝の舞 五穀の舞
水神舞

普勝の舞

五穀の舞


一方、祈祷の舞は、予祝の要素が濃くみられるものである。主なものをあげておくと、まず、「五穀の舞」は高天原の使者である月読命を迎えた保食神が口から食物を出して饗応したので、月読命は怒って殺してしまった。ところが、死った保食神の身体から五穀がはえて稔ったので、これを、天照大神に献納し、保食神は稲荷大明神の官位を授かったという五穀豊穣の祈祷舞である。 なおこの舞いの裏舞にあたるのが「女五穀の舞」である。「尊揃いの舞」は高天原に神々が集まって行なう神遊びの状況を舞ったもので、同様の内容の「天女の舞」と表裏の関係にあり、ともに子孫繁栄慶祝の舞いとされている。「年寿の舞」は別名を「高砂子の舞」ともいい、老夫婦が薬師大明神の霊験により若返るという延命長寿の舞いである。 「稲田姫の舞」は大蛇退治の物語で夫婦和合、子孫繁栄の舞いである。この他新築や改築の修祓に舞われる「竜神の舞」や「悪神退治の舞」、地鎮の祓いとして十二方位を巡る「御台舞」も重要な舞いである。 これらは祈祷舞であるが、土地の悪霊を鎮める呪法も取り入れられている。漁村で欠くことのできないものに「恵比須舞」がある。これは大漁祈願の舞いとされているが、五穀豊穣の祈祷舞でもあるともいい、漁村といっても半農半漁のこの地方の生活にそくした祈祷舞である。

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