エンブレム・ブック | |||
16.オットー・ファン・フェーン『ホラティウスのエンブレマータ』 (ブリュッセル、1683年) |
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Otto van Veen, Quinti Horatii Flacci Emblemata | ||
ファン・フェーン(ラテン語名Otto Vaenius)は、法律家を父としてライデンに生まれ、リエージュの宮廷で人文主義者及び画家としての教育を受け、'pictor doctus'(画家博士)と称される画家となった。リエージュ、ブリュッセル、ライデンなどで活躍し、リプシウスとの親交も厚かったが、アントウェルペンに移って若きルーベンスの師となった。1608年にルーベンスがイタリアから帰国すると、ファン・フェーンの名声は画業よりもエンブレム・ブックの作者として高まっていった。 1607年に初版が刊行された本書は、特定の古典作家のテクストを題辞として用いて製作されたエンブレム・ブックの最初の例である。ファン・フェーンの古典への造詣が遺憾なく発揮されており、本書に一貫して示されるストア的な教訓は、18世紀に至るまで「為政者の鑑」として重宝された。また、エンブレム・ブックはしばしば室内装飾にモチーフを提供したが、本書のエンブレムは、スコットランドのピンクル城(Pinkle Castle)の装飾パネルに用いられている。 本書のエンブレムは、運命の変転や時の推移に対する教訓を表すものが多い。目隠しされた運命の女神の姿[1]は運命の気紛れを表すが、その一方で、女神が身にまとう風をはらんだ帆布と手にした櫂は、運命の気紛れにもかかわらず、人間が人生航路の舵を取ることができることを示唆している。個人の力量が作用する余地を認めている点は、中世の一方的に人間を弄ぶ「運命」とは異なり、ルネサンス的な特色である。このエンブレムから引き出される教訓は、運命により幸運を授かっても本質は変わらない、ということである。気紛れな運命は、時には猿に王冠と王笏を授けることもあるが、それでも猿は猿に変わりはない。 図[2]では「時の翁」が登場して、人間と時間のかかわりを主題としている。賢者が過ぎ去った時を想起するとき、それは時間を有益に使ったかどうかを判断するためだが、愚者はそうすることで失われた時を嘆くのである。
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