エンブレム・ブック | |||
17.オットー・ファン・フェーン『愛のエンブレム集』(アントウェルペン、1608年) | |||
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Otto van Veen, Amorum Emblemata | ||
ファン・フェーンの『愛のエンブレム集』は、それぞれ異なる3つの言語からなる4種類の多国語版で、1608年に同時出版された。慶應義塾図書館所蔵本は、ラテン語、オランダ語、フランス語の3カ国語の組み合わせである。オランダでは、愛を主題としたこの種の横長のエンブレム・ブックが大流行し、本書も多くのオランダ語のアンソロジーに転載されて広まり、室内装飾のデザインとしても用いらた。 『愛のエンブレム集』は、オウィディウスを中心に集めた愛の箴言を素材として仕立て上げたエンブレム・ブックにである。17世紀初頭のライデンはカルヴァン主義の影響下にあったが、この種の愛のエンブレムの版画を収集することは知的階級の楽しみであった。図版にはほとんど例外なくキューピッドの姿が登場し、オウィディウスやペトラルカの愛の技法の影響を強く感じさせる綺想の世界を展開している。その意味で本書は求愛の書であり、タイトルページの余白に自分の紋章を描いて意中の女性に送れば、そのまま愛の告白ともなったのである。しかし同時に、愛を文明化された感情ととらえて抑制することを教える教育的意図も持ち、さまざまな古典作品に基づいた綺想を展開するユーモア溢れる書でもある。出版に際してはファン・フェーン自らが出版人となり、アントウェルペンで宗教書を出版していたHenricus Swingen (c.1560-1615)と契約して印行した。 図[1]は端的にペトラルカ的世界を表明している。「貴女の視線に射られるので、キューピッドの矢は不要である」という内容の詩文がついているが、意中の人の眼差しにより傷を受けるという表現は、ペトラルカ以来の常套的な比喩である。図[2]では、「時の翁」(Father Time)がキューピッドの羽の一部を切り取ろうとしている。詩文は、キューピッドの飛翔を抑制出来るのは「時」だけだが、その「時」でさえも愛の火を完全に消し去ることはできないと主張する。
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