Graduate Seminar in Theatre Studies at Keio University

Activities

熟議民主主義における演劇的モメント
異質な声を聴く――民主主義の声をめぐる演劇的論点

主催
科研プロジェクト「シアトロクラシーとデモクラシーの交差 演劇性と政治性の領域横断研究」
講師
田村哲樹氏(名古屋大学大学院法学研究科教授)
針貝真理子氏(東京大学大学院総合文化研究科准教授)
司会
平田栄一朗
開催日
2023年11月18日(土)
会場
慶應義塾大学三田キャンパス 第3校舎(大学院校舎)2階 325-B

概要

科研プロジェクト「シアトロクラシーとデモクラシー」の一環として、名古屋大学大学院法学研究科教授・田村哲樹先生を三田キャンパスにお招きし、本プロジェクトの趣旨を踏まえて熟議民主主義と演劇性の関係についてお話しいただきました。田村先生の講演の前に、本科研プロジェクトの共同研究員である針貝真理子さんから、民主主義文化の促進には異質な声を聞く必要があることを舞台作品の事例から説明していただきました。 講演の後、参加者の方々から多くのご質問やご意見を頂戴しました。

 

針貝真理子氏:異質な声を聴く――民主主義の声をめぐる演劇的論点
アリストテレスは、政治に関わることができるのは理性的言語(ロゴス)を持つ者のみであり、身体的な声(フォネー)しか持たない民衆には政治に関わる資格がないとして民主主義を批判した。 民主主義制度が形成された西洋の諸語には、「声=票(羅vox、仏voix、独Stimme)」という用法が見られるが、この可算的な声はつねにロゴスと同一視されてきたと言える。 それに対し、近年メディア論や演劇学を基盤にドイツ語圏で発展した声研究は、声とロゴスの同一視を批判し、声において透明化されてきた身体性に着目している。 本発表では、演劇学的声論に基づいて、民主主義を成立させる声のありかたを再考することを目指す。声の身体性は、とりわけ実験的な演劇実践において、舞台上に構築された世界の虚構性を暴く異質なものとして現れる。日常ではほとんど知覚されない、そうした異質な声を聴く経験を可能にする場として演劇が果たす役割についても考えてみたい。

 

田村哲樹氏:熟議民主主義における演劇的モメント
様々な民主主義論の中で、とりわけ熟議民主主義は「理性(的)」「合理的」などの用語で特徴づけられることが多い。しかし、30年以上にもわたる熟議民主主義研究の中で、その理性中心性は見直されてもいる。その際に議論されてきたのは、熟議民主主義における情念・感情の重要性であった。 本講演では、このような情念・感情を重視する熟議民主主義論をも念頭に置きつつ、熟議民主主義論において「演劇的モメント」がどのように見られるかについて検討する。 本科研プロジェクトで行われている議論に示唆を得つつ、本講演で演劇的モメントとして主に想定するのは、①「快」「不快」という判断基準、②観客の重要性、③副次的なものの重要性、④虚構性の積極的な側面、である。 本講演では、様々な熟議民主主義論をこれらの演劇的モメントについてどのようにアプローチしているかという観点から検討し、熟議民主主義が演劇的モメントを伴った民主主義論であることを論じてみたい。


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