Graduate Seminar in Theatre Studies at Keio University

Activities

Dance-Talk⑦
『バラ色ダンス』を振り返る

主催
科研プロジェクト「シアトロクラシーとデモクラシーの交差 演劇性と政治性の領域横断研究」
講師
川口隆夫氏、呉宮百合香氏
司会
宮下寛司
開催日
2023年3月3日(金)
会場
慶應義塾大学三田キャンパス 南館 4階 会議室

概要

以下の概要にてダンストークを開催いたしました。

 

2022年10月、『バラ色ダンス 純粋性愛批判序章』をもって、川口隆夫氏による『バラ色ダンス』プロジェクトが始動した。このプロジェクトは舞踏家土方巽の60年代における代表作『バラ色ダンス——A LA MAISON DE M. CIVEÇAWA』を基にしており、川口氏はさらに「キャンプ」というテーマを掲げてこの作品が現代に問いかける意義を模索した。 「キャンプ」とは美術批評家スーザン・ソンタグが「キャンプについてのノート」(1964)において提唱した芸術・文化的事象である。批評におけるキャンプの発見は、まさしく舞踏が興り始めた時期でもあった。 1960年代において人々は社会的にも芸術的にも(そして舞踊史・演劇史の観点からも)抵抗と解放を目指していた。川口氏の『バラ色ダンス』によって接続される舞踏とキャンプという2つの文脈によって、60年代において共有されていたであろう抵抗と解放の実態を見定めることができるはずである。 「キャンプ」は、過度に誇張され大げさであることや表層的であることとして理解されることが多い。しかしソンタグはそのノートにおいてキャンプを明確に規定するよりも、キャンプと呼べる様々な例示を重ねていく。中には「…でないもの」という言い方によって示されることも少なくない。このことから分かるのは、キャンプとは常に私たちが何か明確に定めたくなるものから逃れてしまうものそれ自体であり、その逃れるさまを捉えるためには否定形でもって語るほかないのである。キャンプは私たちが理解可能な輪郭へと押し込めようとする頑強な規範性に対して何度も何度も否定的に応答する姿勢を反映しているのである。 キャンプのこうした性格は、近年の研究が示す通り、多かれ少なかれクィア的であるともいえる。キャンプが持つクィアな可能性は、『バラ色ダンス』においてどのように見出すことができるのだろうか。1960年代に比べて多様な価値を認めるように見える今日の社会であっても、必ずしも欲望の多様性がそのまま首肯されるわけではない。個人に備わる真っ当な欲望を持って生きていくことすら難しいこともある。このプロジェクトに冠された「純粋性愛批判」というサブタイトルは、こうした社会的状況における欲望の可能性/不可能性について問い直す姿勢を示そうとしているのではないだろか。 そしてそのことをクィア的な視点から示そうとしているのではないだろうか。
現代の民主主義についての議論において、クィアの持つ破壊的なポテンシャルを認めることは、より開かれた民主世界の可能性を模索するのに有効であるという考え方も提示されている。こうした試みはまずもってアートの領域でなされるべきであろう。 川口氏の『バラ色ダンス』について語ることで、民主主義が持ちうるクィアのポテンシャルについての議論に寄与できるはずである。 本トークでは同プロジェクトを率いた川口隆夫氏とドラマトゥルクである呉宮百合香氏にお越しいただき、制作過程や成果、そして今年に公開予定される同プロジェクトの本公演への展望を語っていただく。その際、上記のようなコンセプトについても参加者も含めて自由に議論する予定である。


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