Graduate Seminar in Theatre Studies at Keio University

Activities

Theatre-Talk①
ひきつけられるロケーション、あるいはロケーションからはなれて

主催
科研プロジェクト「シアトロクラシーとデモクラシーの交差 演劇性と政治性の領域横断研究」
講師
松田正隆氏
司会
石見舟
開催日
2022年10月28日(金)
会場
慶應義塾大学三田キャンパス 大学院校舎 348

概要

以下の概要にてダンストークを開催いたしました。

 

劇作家・演出家である松田正隆氏は、現在ロームシアター京都で初演される「文化センターの危機」の創作中です。この作品はレパートリーとして、ひとつの劇場で何度も演じられ、やがてその劇場に通う人々の共通の経験となっていくことを目指して作られます。これは氏が昨年同地で初演した「シーサイドタウン」に続く作品ということになります。制作上の枠組みこそ違えど、この二作品は内容面では氏のここ最近の演劇作品と地続きにあるものと言えるでしょう。これらの上演で観客が知覚することになるのは、ほとんど何もない舞台空間と、そこで極めて抑制的で静かな演技をする俳優たちが物語を展開する過程です。しかし物語られる事件はその外面とは異なり、殺人事件であったり、車が行き交う国道の様子であったり、あるいはとある空間にただ佇む人であったりと様々です。こうしたバラエティー豊かな物語たちをまとめ上げているのが具体的な地名、つまりロケーションです。 演劇創作にあたってロケーションを設定し、場にひきつけられながら戯曲を書き、最後にはそれを当のロケーションからは離れた「自由な」空間で演じるという手法は――この10年だけを見ても――氏が代表を務める演劇集団マレビトの会による、2012年に福島を取材した『アンティゴネーへの旅の記録とその上演』以降、『長崎を上演する』(2013-16)、『福島を上演する』(2016-18)において脈々と受け継がれてきました。そして『上演する』のプロジェクトは第3作である『広島を上演する』の制作が予定されています。これらのロケーションが無作為に選ばれたわけではないのは、広島・長崎・福島という被曝を経験した都市が挙げられていることからも明らかです。
このように重い歴史性と政治性を背負ってきたロケーションを背景に置きながら、抑制的な演技によって日常の多様な物語を展開する演劇を私たちはどのように捉えることができるでしょうか。日常生活と未曾有の破局(カタストロフ)をときに重ね合わせつつ、ときに引き離すようなマレビトの会の舞台作品は何を示唆するのでしょうか。
これらの問いには多くの見方や解釈が成り立つでしょう。舞台作品がある重いテーマを多角度から呈示し、観客がそれについて様々に語り合うことは、自由な言論を保証する民主社会ならではの言論空間と言えます。 今回のイベントではマレビトの会の主催者である松田氏にご自身の演劇活動についてお話しいただき、参加者を交えて多角度から演劇について語る場を設けたいと考えています。


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