Graduate Seminar in Theatre Studies at Keio University

Activities

Theatre-Talk②
オーディオ演劇『マミマニア』から考える、フレンドシップと創作活動

主催
科研プロジェクト「シアトロクラシーとデモクラシーの交差 演劇性と政治性の領域横断研究」
講師
稲継美保氏、曽根千智氏
司会
石見舟
開催日
2023年1月25日(水)
会場
慶應義塾大学三田キャンパス 大学院校舎 325-B

概要

以下の概要にてダンストークを開催いたしました。

 

稲継美保、櫻内憧海、曽根千智、額田大志、朴建雄、針貝真理子から成るユニットPawonsは、2020年のパイロット作品『公園』を経て、2021年夏にオーディオ演劇作品『マミマニア』を発表しました。“観客“はそれぞれスマートフォンとイヤフォンを持ち、暗い街を散歩するよう促されます。街を歩きながら、耳から聞こえてくるのはタヌキをめぐる奇妙な物語です。観客の身体的感覚が加わることにより、ラジオドラマとは少し異なった趣の作品となっています。 2020年から2021年にかけて行われたこのプロジェクトは、新型コロナ・ウィルスの爆発的感染のために人々が稽古場や劇場に集まることができない状況のもとで制作・“上演“されました。またそうした特殊な状況は、演劇制作のあり方そのものを新しく捉え直す機会ともなりました。演出家が座組の頂点に位置し上意下達で制作を進めていく仕組みではなく、『マミマニア』では、クレジットにもあるとおりメンバー全員が「テキスト・演出・制作」を担っています。 それを稲継・曽根両氏は「フレンドシップ」による結びつきだと呼びます。単なる「慣れあい」とは別な意味での「フレンドシップ」による演劇制作は、台本の構想・執筆、録音、音声編集などの過程においてどのように特殊であったのでしょうか。 またこの特殊性を、再び人々が劇場に集まるようになった2023年の演劇制作にどのように生かすことができるのでしょうか。
演劇学はながらく、ステージ上で提示されるドラマチックな出来事の内容的分析だけでなく、それを見る観客との関係を問おうという、いわば構造的な分析にも焦点を当ててきました。ステージで行われることがどんなものであれ、人々が集まる場としての“theatre“(劇場=演劇)に注目してきたのです。ここでの「場」は物理的空間(劇場)であるだけでなく、俳優と観客の関係が構築されるような抽象的な場(演劇)をも意味しています。 そしてこの二つの意味を持つ「場」を通して、演劇が独自の政治的思考を紡ぐことが期待されてきました。というのも議会制民主主義もまた、人々が物理的かつ抽象的に集まる「場」としての議会を持つことで機能してきたように、演劇と政治制度には共通点が見いだせるからです。フレンドシップに基づくオーディオ演劇制作という実例によって、人々が集い、関係を構築していくことの可能性を探ることは、「脱コロナ」が叫ばれている現在において重要なことであると思われます。


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