Graduate Seminar in Theatre Studies at Keio University

Activities

Dance-Talk⑤
From The Other Side

主催
科研プロジェクト「シアトロクラシーとデモクラシーの交差 演劇性と政治性の領域横断研究」
講師
小暮香帆氏
司会
宮下寛司
開催日
2022年9月28日(水)
会場
慶應義塾大学三田キャンパス 大学院校舎 325-B

概要

以下の概要にてダンストークを開催いたしました。

 

観客はダンスを観るときに、舞踊家の身体運動へと集中しその流れを経験します。そこで舞踊家の踊りには観客の持つ空間や時間への意識を変容させることができると感じるときがあるでしょう。舞踊家の身体運動にはこのように自律的に周囲へと働きかける能力があり、舞踊とはその能力を経験する場所であるといえるのではないでしょうか。現代のコンテンポラリー・ダンスと呼ばれる時代には一層このような舞踊観がはっきりしてきました。それにともない現代の舞踊家はこのような能力を発揮するよう求められています。 しかし、舞踊家は自律的な能力を発揮するために完全に自由であるとは限りません。舞踊家は常に振付的な規則やタスク、さらには上演の環境など様々な要素との交渉にさらされています。したがって観客に生じる時空間に対する意識の変容とは、そのような交渉の結果であり、舞踊家の身体運動が一方的に周囲を変容させようとしているだけではないのです。舞踊においては身体と周囲の要素との相互作用が不断に生じているといえます。 こうした相互作用をも芸術対象としてみるならば、舞踊は身体・空間・(非人間的な)マテリアルの間にあるダイナミックな相互作用そのものであるといえるでしょう。そのような舞踊は「構成するアート」と考えられますが、様々なものが相互作用的に構成されていくなかで、もはや舞踊家の身体運動を起点にすることが観客の経験にとって重要なのではなく、その運動をもたらす関係の過程を見つけ出すことが重要になります。 「構成するアート」としての舞踊において舞踊家はもはや自律的に周囲に働きかける主体なのではなく、他律的に構成される主体です。民主主義においてもこのような他律的な政治主体のありかたが、現代的な政治状況において求められているのではないでしょうか。このトークでは、小暮香帆氏のソロとコラボレーションの実例をみながら、「構成するアート」としての舞踊の可能性を広く話していきます。


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