Graduate Seminar in Theatre Studies at Keio University

Activities

Dance-Talk⑥
隠すことのない(公然とした)曖昧さについて――振付をめぐる想像力

主催
科研プロジェクト「シアトロクラシーとデモクラシーの交差 演劇性と政治性の領域横断研究」
講師
木村玲奈氏
司会
宮下寛司
開催日
2022年12月23日(金)
会場
慶應義塾大学三田キャンパス 大学院校舎 325-B

概要

以下の概要にてダンストークを開催いたしました。

 

現代においてダンスがその表現方法を広げていくとき、それを実現するための振付も多様な方法で生み出されます。すでに振付は記譜としての機能以上の働きを持っており、ダンサーや振付家などのアーティストの間で「振付とは何か」という問いに対して確固たる共通項を探し出すのは困難です。 もはや、振付はダンスのためだけにあらかじめ書かれたテクストのような実体的なものであるばかりか、それ自体がひとつの文化的「技術」といえます。それゆえにダンスと振付という不即不離に見える関係を異なる仕方で考えなおす必要がありそうです。 ダンスの上演において、振付はダンスを成立させるためにダンサーとつかず離れず寄り添い、観客はその仕組みを見出そうとします。それゆえに振付とは振付家の手によって制作され完結した構造というよりもむしろ、上演においてプロセスとして成立するともいえるます。それゆえにこの意味での振付は閉ざされることなく、観客に対して(そしてダンサーにとっても)明らかなものとして手渡されることはないのです。 「どのように、なぜ、どこへ、何が動くのか」ということを問い続けることで振付を見出そうとしながら、眼前の動く身体(あるいはモノ)を観ます。すなわち振付とはダンスという状況が観客とともに続けられるために、観客の想像力へと働きかける曖昧で不確かな存在といえるでしょう。 そして曖昧さに基づく想像力によって、ダンスにおける空間や身体の具体的な確かさも多層化されていくのです。 本トークではダンサー/振付家である木村玲奈氏をお呼びし、10年をかけて日本各地で実施されたダンス・プロジェクト「どこかで生まれて、どこかで暮らす。」や6段の階段を振付の一部として用いる「6steps」を中心に上記のような振付の考え方について語っていただきます。独特な身体的語彙を用いる木村のダンスは時としてミニマリスティクと目されるが、このような振付の考え方に立つとき、木村のダンスはより広い射程を有するはずです。 これらの作品にとって具体的なモノや土地と身体の関係をいかにして振付が可能にしていくのかという問いは誰に対しても開かれているといえます。
観客とダンサーそれぞれの立場において異なる振付へのパースペクティブを、このトークでは共有し検討していきます。個々の異なる立場を認めたうえで振付という曖昧な領域に関して議論していくことは、舞踊芸術をめぐる民主的なコミュニケーションでもあるといえるでしょう。


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