Graduate Seminar in Theatre Studies at Keio University

Activities

Dance-Talk⑩
「…に行くかのように劇場へ行く(べきだ)」――劇場の回復力について

主催
科研プロジェクト「シアトロクラシーとデモクラシーの交差 演劇性と政治性の領域横断研究」
講師
萩谷早枝子氏
司会
宮下寛司
開催日
2023年11月1日(水)
会場
慶應義塾大学三田キャンパス 大学院校舎 325-B

概要

以下の概要にてダンストークを開催いたしました。

 

ダンスが劇場以外で公演されることはもはや珍しくない。劇場公演では実現できないような時間と空間の構成、参加者の繋がり方を目指してダンスは劇場を飛び出していったのである。とりわけ観客が客席に座らないでダンサーと関わり合うことはダンスの新たな自由として求められていたに違いない。その一方で社会的・経済的事情によって劇場公演を断念し外へと出ていくことを選択したこともあるだろう。いずれにせよダンス公演にとって劇場とは当たり前のように必要な場所ではないことは確かかもしれない。 様々な場所でダンス公演が行われ人々が参加することで、ダンスはその場所が持つ社会的・歴史的な特徴を浮かび上がらせようとする。ダンスはどのような場所でも可能ではあるが、それは必ずその場所固有の課題と関わらざるをえない。したがって劇場を出ることはダンスの自由なのでなく、新たな課題を見つけに行くことを意味する。そのように考えるならば、劇場はどのような社会的・歴史的特徴でもってダンスを受け入れることができるのか。そして劇場固有の課題とは何であるのか。今や劇場はただのブラックボックスではないのであり、劇場は自らの方法でダンスを実現するのである。 それゆえ劇場が従来と異なるようにしてダンスを迎え入れる方法を模索する意味は十分にあるだろう。劇場がダンスに対してできることは、これまでできたことがすべてではない。劇場の固有の方法でダンスを導くことはどこまで可能であるかはまだ試す余地があるといえる。劇場とはダンスを観るためこそ人々が集い、行き交い、留まり、想像する場所である。このような集合的な営みはどのように新しく組織しうるのか、それを通じてダンスの可能性を発見できるのかを問うことはできるだろう。
劇場の可能性について、ST Spotで館長を務め、制作を担当している萩谷早枝子氏とともに考えていきたい。2000年代のダンス・シーンを牽引したラボ20の舞台であったST Spotは現代的な状況において何ができるのかを、これまでの実例そしてこれからへの期待を語っていただく。そして会場の参加者とともに様々な劇場の姿について自由に議論をしたい。 劇場が新たな表象方法を自己反省でもって獲得していくことは、パフォーマンス研究者のイヴ・カツラキが政治学者デヴィッド・チャンドラーにならって名付けたレジリエンスといえる。民主主義が統治との緊張関係にある時、レジリエンスによって統治を修正・克服できることを両者は期待している。 そのような議論に則りながら劇場のレジリエンスを考えていくことは重要であろう。


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