コミュニケーション行動の生涯発達研究拠点について

コミュニケーション行動の生涯発達研究拠点について

   わが国において少子高齢化が叫ばれるようになり数十年が経過します。この間にも次代を担う子供を安心して生み、育てることができる社会を実現するための「子育て支援制度」、高齢者が生涯にわたって笑顔があふれるような社会を実現するための「高齢社会対策」が講じられてきました。そこでは教育、医療、福祉、工学の観点から様々な取組がなされてきましたが、その根幹にある個々人の「心」の問題、特に、コミュニケーションの問題についてはその重要性にも関わらず取り残された問題です。

   本プロジェクトは、そのコミュニケーションの問題に取りくみます。人間が行うコミュニケーション行動の「困難さ・つまずき」、例えば他者の気持の理解や自分の気持の表現の難しさ、視聴覚情報処理における困難さ、発達や加齢に伴う変性などに注目し、その原因となる心的、神経的システムを明らかにします。その上で、この「困難さ・つまずき」を埋めるツールやシステムの開発、臨床の現場での活用を目指します。このような基礎研究と臨床や現場での活用という循環を持つ研究拠点形成を行うことを目的としています。

   コミュニケーションや社会行動は、人間を人間たらしめる特徴の一つであり、その問題は、発達障害や認知症、うつ病との関わりも強いものです。例えば視線やボディタッチ(触覚情報)といった基本的なコミュニケーション行動は発達障害の療育で重要視されていますが、それらは同時に認知症の進行を防いだり、介護を楽にする要因としても注目され始めています。これまでの学術研究はコミュニケーション行動について、生涯発達心理学的観点から包括的に研究がなされておらず、コミュニケーションを支える人間のダイナミックなシステムの理解は不十分であるのが現状です。本研究拠点では生涯に渡るこれらシステムの包括的理解を目指すとともに、人間の行動や思考システムの理解や制御を試みる理工学分野、発達障害やコミュニケーション問題を持つ精神疾患に関与する医学分野と連携し文理融合することで、統合的な理解を進めます。

   特に矢上キャンパスに近い日吉心理学教室の地の利も活かし、理工学部との共同研究を積極的に行い、これまでに積み重ねてきた心理学と医学部との共同研究も更に発展させ、分野横断的研究拠点を築いていきます。

コミュニケーション行動の生涯発達研究拠点リーダー 皆川泰代

支援ツールの開発