Graduate Seminar in Theatre Studies at Keio University

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Dance-Talk ④
プロセスを見ること

 

このたび立教大学現代心理学部映像身体学科で助教を勤める宮川麻理子氏を慶應義塾大学三田キャンパスにお招きして、舞踏の創作プロセスをテーマにしたトークイベントを開催します。 民主主義はプロセスを重視する政治のありかたといえますが、そのプロセスを常に批判的に検討することも同じく重要です。このことはダンスについても同様のことがいえるでしょう。 ダンス上演だけではなくそれに至る無数のプロセスを改めて振り返ることはダンスをより豊かに考えるきっかけになるはずです。ダンス制作のプロセスを批判的に捉えることについて、舞踏家大野一雄を例にとって宮川氏にお話しいただきます。 宮川氏の発表内容は次の通りです。

 

ダンスの歴史を記述することは、単に作品や出来事を年代順に並べたり、ジャンルの成立過程を辿ったりすることにとどまりません。ある一つのダンスの中には、踊っている本人すらも忘れているかもしれない身体的な記憶が残されていることがあります。そのような記憶の蓄積を分析していくことで、思いがけないつながりが見出されることがあります。また、ある一つの身振りに注目した時、その「かたち」ではなくその動きが生成するプロセスに着目することで、新たな関連が浮かび上がってくることもあります。 これらは樹形図的・直線的な影響の外で、ダンスの歴史を見ていくことにつながります。
具体例として、舞踏の身振りを題材に、S・パジェスの著書を参照しながら表現主義舞踊やフランスのダンスとの共通項を見ていきます。また、舞踏家・大野一雄の身体に刻まれた記憶を検討しながら、舞踏の身体が出来上がるまでの過程を検証してみます。
プロセスへの関心は、作品創作の過程で捨象されていくさまざまなもの(稽古の時間やメモ、デッサンといった痕跡など)にわたしたちの目を向けさせます。ダンスが生まれる前に生じ、上演においては身振りの中に溶け込んでいくこれらの作業に思いを巡らせながら、それをどのような言葉や方法で論じることができるのか、ダンス研究の新たなアプローチを検討してみたいと思います。

 


日時: 2022年7月20日(水) 18:30 ~ 20:30
会場: 慶應義塾大学三田キャンパス 大学院校舎 325-B
司会: 宮下寛司
主催: 科研プロジェクト「シアトロクラシーとデモクラシーの交差 演劇性と政治性の領域横断研究」

*本トークは日本語で行われます。
*要予約→Google Forms (7/13(水)締切り)

 

宮川麻理子氏
東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻(表象文化論)博士課程単位取得満期退学。博士(学術)。現在、立教大学現代心理学部映像身体学科助教、早稲田大学演劇博物館招聘研究員。 大野一雄を中心に、舞踏とコンテンポラリーダンスを研究。共著にThe Routledge Companion to Butoh Performance (2019)。研究活動のかたわら、劇評を『シアターアーツ』『ダンスワーク』『artissue』『Real Tokyo』等に寄稿。また、ドラマトゥルクおよび俳優として、鮭スペアレほか演劇やダンスの公演にかかわる。