デイヴィッド・チャクルースキー『詩神たちの館』
A−
Czuchlewski, David,The Muse Asylum.立石光子訳,早川書房,2002.246p.

 主人公はプリンストン大学を出たばかりでマンハッタンで働く新聞記者である。新聞と言っても無料で配られる広告中心の新聞である。編集長から著名であるが全く正体のわからない隠遁作家ホラス・ジェイコブ・リトルを探し出すという仕事を言いつかる。友人のハッカーに頼み出版社からのメールをもとに何とか見つけ出した。さて,大学時代の友人が,ホラス・ジェイコブ・リトルを卒論のテーマとしていたが,その秘密をつかんだために,監視されていると思いこみ,精神病院「詩神たちの館」に入っているが,退院してきた。
 ミステリとして,終了間際にどんでん返しがあるが,これが十分に説明されないので,読者には何が起きたのかがわからないまま,最後のもう一つの山場になってしまう。どうやらこれは, コラピント『著者略歴』のようなメタ小説であるが,架空作家リトルの作品紹介ひとつをとってみても『著者略歴』よりは,はるかに高い水準にあることは確かである。

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