木版・銅版の挿絵本 | |||
83.ハンス・ザックス『西洋職人づくし』(フランクフルト、1568年) | |||
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Hans Sachs, Eygentliche Beschreibung aller Stände auff Erden | ||
ハンス・ザックスはニュルンベルクの仕立屋に生まれ、修業ののちニュルンベルクの靴作りの親方になると同時に、マイスタージンガーをしのぐほどの歌と詩作の技を身につけ、自作の詩を披露するとともに謝肉祭劇を自作自演した。 タイトルページによると本書は、「身分の高いものも低いものも、聖職者も俗人も問わず、芸術、手仕事、商売など、この世のあらゆる仕事についての厳密な解説」をするもので、ブラントの『阿呆船』(no.45)に通じる社会風刺の精神をもっている。木版画を担当したヨースト・アマン(Jost Amman, 1529-91)はチューリッヒ生まれで、ガラス絵師の修業をしていたが、遍歴の旅に出て当時ヨーハン・フローベン(Johann Froben)を中心に印刷業の中心地であったバーゼルで版画家となった。その後、ニュルンベルクで版画家のフィルギル・ゾリス(Virgil Solis)と出会うが、そのゾリスは、フランクフルトをニュルンベルクと並ぶ 挿絵入り本の生産地として確立させたジグムント・フォイアーベント(Sigmund Feyerabend)の版画を製作していた。ゾリスの死後、アマンはフォイアーベントの仕事を引き継ぎ、本書以外にも、1586年には『女性服飾画集』をフォイアーベントのために製作している。 本書には書物生産にかかわる職業の場面も多い。紙すき、木版彫り、印刷[1]、製本[2]、下絵作成、活字鋳造などの場面が挿入されている。活版印刷術については、付随する詩文で「かつては手書きで本を書いたが、この技はマインツで最初に出来上がった」と、グーテンベルクに間接的に言及しつつ説明されている。
ハンス・ザックス詩、ヨースト・アマン版『西洋職人づくし』小野忠重解説 (岩崎美術社、1970) |
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