ヨーロッパ文学
45.セバスチャン・ブラント『阿呆船』(バーゼル、1572年)

 

Sebastian Brant, Stultifera navis mortalium syoshi.jpg (1610 バイト)

   セバスチャン・ブラントの『阿呆船』の初版は初期新高ドイツ語で書かれ、1494年にバーゼルで刊行された。その後1497年にはJakob Locherによるラテン語訳がバーゼルで刊行されて、矢継ぎ早に版を重ね、その他低地ドイツ語、フランス語、オランダ語、英語にも次々と翻訳された。16世紀には全ヨーロッパ的なベストセラーとなった本書は、15世紀末のドイツの道徳的退廃に対する教訓詩や風刺詩のアンソロジーで、一群の阿呆が船で阿呆国へと航海するという枠組をもち、そのなかで、あらゆる身分や階級の愚かさを指摘し、それを理性によって戒めるものである。

   「書物の無用さ」という題辞を持つ挿絵[1]で、 阿呆船の船首にいるのは、万巻の書を手元に集めながらも、それをまったく読むことなしにあがめている愛書家である。ブラントが生まれ育ったストラスブールと大学教育を受けたバーゼルは、どちらも15世紀後半を代表する出版都市であった。愛書家の姿は、書物生産が飛躍的に盛んになるなかで、利用を伴わぬ書物収集を風刺するとともに、出版物の質的低下にも警鐘を鳴らしていると言える。

   「運命の気紛れ」という題辞の添えられた挿絵 [2]は3人の阿呆が運命の車輪を上り下りする図で、運命の車輪を上ってゆく者、車輪のてっぺんで束の間の幸福に浸る者、回る車輪から振り落とされぬように必死でしがみつく者が描かれている。挿絵の下の詩文の内容は、権力者はどんな世俗の手段を頼んでも権力の座に長くとどまることは難しく、むしろ決して崩れぬ神の力を愛すべきであるというものである。

 

ブラント(尾崎盛景訳)『阿呆船』上、下巻(現代思潮社, 1968, 1984

 

     

 

  home_j.jpg (7036 バイト) sakuin.jpg (6924 バイト) tyosya.jpg (7414 バイト) syudai.jpg (7312 バイト) syuppan.jpg (7687 バイト) Englishpage_botin.jpg (7141 バイト)