エンブレム・ブック
15.ジャン・ジャック・ボワサール『人生の劇場』(メス、1596年)

 

Jean-Jacques Boissard, Theatrum vitae humanae syoshi.jpg (1610 バイト)

   ジャン・ジャック・ボワサールは、フランクフルトで活躍していた銅版画家でエンブレム作家のテオドール・ド・ブライ(Theodore de Bry)と協力して、本書を含む複数のエンブレム・ブックを製作している。本書は、やはりド・ブライの銅版画を入れて刊行された『エンブレムの書』(Emblematum Liber, Frankfurt am Main, 1593)とは異なり、聖書を中心にギリシャ・ローマ、エジプトなどの神話も題材としている。主要なエピソードを60点の図版で描き、それぞれにラテン語の4行詩と散文の解説を付している。

   タイトルページ[1]は人間の人生を4つの世代に分けて描いている。ホルバインの『死の舞踏』(no.46)からも明らかなように、「死」は階級、職業、年齢に関係なく訪れる。まだゆりかごに寝ている幼児にも、新婚の青年にも、商売熱心な中年の貿易商人にも、死期が近い老人にも平等に訪れる。こうした現世の無常の認識は、「人生はいうなれば悲惨な場面が演じられる劇場である」という、最初のエンブレム[2]の主題となっている。人間は人生というサーカスあるいは劇場で、死、サタン、「罪」、「感覚」による攻撃にさらされている。人生をいくつかの世代に分けて考察する「人生の諸時期」(ages of man)と「劇場としての人生」のモチーフはしばしば一緒に登場する。シェイクスピアの『お気に召すまま』(II.vii.136-66)に登場するジェークイズが、人生を7つの時期にたとえる台詞があるが、それと比べるとボワサールの視点はより現世蔑視的である。

   反逆天使が地獄へと追い落とされる場面を描いたエンブレム[3]では、ピーテル・ブリューゲルの『反逆天使たちの失墜』(ブリュッセル、王立美術館蔵)を想起させるようなグロテスクな反逆天使たちが、怪物レビヤタンの口として描かれた地獄の入り口に飲み込まれてゆく。

 

     

 

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