西洋古典文学 | |||
1.プルタルコス『英雄伝』(ヴェネツィア、1478年) | |||
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Plutarch, Virorum illustrium vitae | ||
紀元1世紀の著述家プルタルコスは、46人のギリシャ、ローマの重要な哲学者や政治家の評伝を記した。それらの多くは、互いに似たところのあるギリシャ人とローマ人を、一人ずつ組み合わせて比較するという形式を用いて著されている。この形式をプルタルコスは「対比列伝」と呼んでいるが、本書もその名前で知られて、ルネサンス期ではシェイクスピアなどに素材を提供している。『英雄伝』のラテン語訳は、1450年以前にいつくもの部分訳が存在していたが、1470年頃にはジョバンニ・カンパノ(Giovanni Antonio Campano)による完訳が完成した。 ヴェネツィアでは、ドイツ人のヨハネス・デ・スピラ(Johannes de Spira, d.1470)によって1469年に印刷業が開始された。本書を印行したニコラス・イエンセン(Nicolaus Jenson, c.1435-80)はフランス人で、スピラに一年遅れてヴェネツィアで印刷業を始め、1480年まで活躍した。イエンセンは古典文学の作品を、独自の美しいローマン体活字を用いて、広い余白を取ったフォリオ版で印刷した。本書には、当時の一流の画家によってさまざまな様式の手彩色が施され、羊皮紙に印刷された刊本がいくつも存在するが、そのことはおそらくそうした余白と文字のレイアウト上の特徴と無関係ではない。展示品は、そうした羊皮紙の豪華本に比較すると地味で、紙に印刷された刊本だが、冒頭の1ページが手の込んだ欄外装飾で飾られている[1]。蔦模様の装飾は印刷面を取り囲んで装飾頭文字(Q)を作りだし、下部には所有者であるナポリ王国のテラーモ司教フランチェスコ・キエレガーティ(Francesco Chieregati)の紋章が描かれている。所有者の紋章を含んだ装飾で本文の第1ページ目を飾るスタイルは当時一般的だったようで、ダンテの『神曲』(no.53)にも認められる。
『鵞ペンから印刷機へ』, 95; 『グーテンベルク』, 24 |
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