1993年のトシドンの映像
                                                         野村伸一

 


トシドンのくれるコッパ餅はいくつになっても忘れがたいという。

 鹿児島県下甑島本町では毎年、新暦12月31日にトシドンが訪れる。トシドンは村の青年が扮装したものであるが、伝承によると、天上から村の背後の勝山や海岸の馬乗瀬に下ってくるという。そして家々を訪問しては、大声で幼児に日頃の行いを尋ねる。「弟の面倒をみてるか」「嘘ばつかんか」「としどんは天井からみているんや」。こうしたかたちで教訓を授ける。また歌を所望して幼い子に歌わせたりする。一種の試練である。幼い子供たちは懸命に試練を乗り越えようとする。親たちは背後で見守っているが、前面にはでていかない。一年の終わりに際しての絶妙な教育ともいえる。
 トシドンは、帰るときには、あらかじめ準備したコッパ餅(切り干し甘藷と餅米で作った餅)を一人一人に与えて去る。これは優しい配慮である。村の長老は「幼いときにもらったコッパ餅のこと、危ないあそびをたしなめられたことを今でも忘れない」といった。

 映像  5分29秒 (1993年12月31日撮影)*1


  *1 野村伸一『巫と芸能者のアジア』、中央公論社、1995年、96-99頁参照。

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