第6章  神楽次第

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  三十三番から構成される舞の順序は、 昭和50年(1975)から固定した。 これは昭和48年度に文化庁の「記録作成等の措置を構ずべき無形文化財」の選択を受けて、 昭和49年に記録作成をして提出したことによる。 それまでは、 初めと終わりは決まっていたが、 その間は流動的であったという。 以下は現行にならった形で記述する。 須藤氏の記述に従い(須藤 308頁)、 銀鏡神社所蔵の下記の三つの文書、  

  1. 大祭行事次第』(年代不詳、 昭和15年・1940以降に書写)
  2. 天窟戸御神楽縁起』(昭和15年3月)
  3. 唯一神道大法神事』(文政2年、 1819)(本田安次「銀鏡神楽」『神楽』木耳社、 1966。 再刊『本田安次著作集』第3巻、 錦正社、 1994、 201−202頁)
  を併用して、 意味・目的・注記を並記する。 銀鏡神社の古文書は昭和29年の火災で大半を喪失している。  

  神楽に使用される主な衣装は、 直面の舞は白衣、白袴、白足袋が基本である。 素襖とは白地有紋の上衣、 ハガサとは細かく切った白紙を沢山取り付けた被り物、 ツマドリは麻紐を輪形にしてしでを下げた簡単なもので頭の頂きにのせる。 面型の舞では、 千早という袖無しに袴が主体で、 地舞は素襖に袴である。 奏楽はシメ下に左手から笛、 太鼓、 ガク、 銅拍子の順に並ぶ。 ガクとは一尺に一尺二、 三寸の板で、 撥で叩く。 調子はゆっくりした「上の地」と、 やや急な「下の地」からなり、 大抵の舞がこの二部構成である。 執物で特徴があるのは、 面型の舞の面棒でトウノムチとも呼ばれる。
 



1番  星の舞

  西之宮の拝殿(内神屋)で舞われる〔avi VIDEO 14.1MB〕 二人。 素襖、 白袴、 ハガサ(羽笠)。 先地(せんじ)は半紙に包んだ餅を吊した榊と鈴、 後地(ごんじ)は白布と鈴を持つ。 シメを立てた願主のための舞。 二十八宿の星神に奉納する神楽である。 銀鏡では二人以上の舞では、 先地が正面に対して左手に立って舞振りを先行し、 後地は右手に立ち先地を助けて和す。 上の地と下の地ともいう。  

  1. 「星之神楽、 十一月十三日神前ニテ廿八宿祭及御シメ願ノ星祭」
  2. 「星ノ神楽、 御シメ願主ノ報賽祀ノ神楽」「七星二十八宿ノ星ヲサスナリ、 星ハ榊ニ二十八ノシデ付立ル也」
  3.   なし


2番  清山(キヨヤマ)

  二人。 狩衣、 白袴、 烏帽子、 小幣、 鈴。 熟達者でないと十分に舞うことが出来ないという。 舞は星の舞と同じ〔avi VIDEO 8.27MB〕 外神屋、 ヤマを清め、 祭場全体を祓い清める意味だという。  

  1. 「清山神楽、 十四日前夜祭神楽始メ」
  2. 「清山神楽、 斎場ヲ祓イ清ムル為ノ神楽」
  3. 「清山、 神楽始ル」



3番  花の舞

  四人。 素襖、 白袴、 烏帽子、 腰幣、 鈴、 扇、 折敷。 腰幣とは小幣を背中に十文字に差したものをいう。 願祝子になる少年が初めて舞うことが多い〔avi VIDEO 12.1MB〕 結界ともいい、 祭場を設定する意味らしい。 榊の葉を散らすが、 これには献饌の意味もこめられる。 古くは三人舞。 昭和47年迄は少女4人の浦安舞。 現在は小中学校の男子が舞う。 〔avi VIDEO 12.2MB〕 

  1. 「花之舞、 乙女四人、 ミソギ献饌之舞」
  2. 「花之舞、 児共ノ初メテ舞フ故、 児共ノ愛ラシク花ノヒラヒラ舞ニ似タル故、 花ノ舞ト云ナリ」
  3. 「花ノ神楽」


4番  地割(ジワリ)

  四人。 白衣、 白袴、 ハガサ、 赤襷、 太刀、 鈴、 扇。 初めは静々と、 後にみだれになると左手にに抜き身の剣、右手に鈴を持って活発に舞う〔avi VIDEO 13.7MB〕 途中で別に二人出て、 塩水で清めて回る。 舞終わると、 宝渡しと称して、 ハガサ、 太刀、 鈴、 襷、 鈴、 扇などを祭員に渡す所作がある。 地鎮めの舞で神が降臨する土地を踏み固める。  

  1. 「地割、 四人舞、 地鎮祭之舞、 神楽中祭場祓」
  2. 「地割、 地鎮祭ノ御神楽ニシテ石筒比古ノ神ノ土ヲ司リ、 石筒女神ノ砂ヲ主リ、 家屋ノ基礎ヲ固メ給始フニ国家社会ノ基礎ヲ固メル為ノ地鎮祭ナリ」
  3. 「地割」


5番  鵜戸神楽(ウトカグラ)

  二人。 素襖、 白袴、 ツマドリ、 腰幣、 扇。 鵜戸神宮の別当を務めた浜砂淡路守重賢が、 そこで習得したとされる神楽を伝えたという由来に基づく。 鵜戸鬼神の地舞で、 途中で鵜戸鬼神の降居(御降、 おりい)がある。  

  1. 「鵜戸神楽、 二人舞、 鵜戸鬼神アリ」
  2. 「鬼神地舞、 地舞トハ御降坐ス地ヲ清浄ニ舞ヒ清メ又間ニ御装束御支度在ラセル為ナリ、 故ニ舞子ガ清浄ノ地斎地ニナシテカラ、 御降アラセラレ亦舞子ト共ニ清々シク御昇神アラセラルル故、 地舞ト云フ」
  3. 「五、 鵜戸神楽。 六、 鬼神」


6番  鵜戸鬼神(ウトキジン)

  一人。 千早、 緋袴、 ハガサ、 面、 面棒、 腰幣、 太刀、 扇。 右手に面棒、左手に榊葉二枚と着物の袖を握って舞う〔avi VIDEO 7.89MB〕 鵜戸からこの鬼神が登山したという伝説に因んで舞われる。 右足から三足舞上がり、 そのままの姿勢で三足軽く後方に飛びさがり、 また元に戻って舞始める。 この飛びさがるところが、 他の面の降居と異なるという。 途中で面棒を立てて、 左手に握っている榊葉を後方に捨てる所作を行なうが、 これを「柴手水」(しばちょうず)という。 地舞が鬼神と向きあって舞を奉納する。 アマの下、 三尺を出ないように舞う。  

  1. 「鵜戸神楽、 二人舞、 鵜戸鬼神アリ」で、 5番と一体である。
  2. 「鬼神地舞、 鬼神御降、 此神ハ鵜戸ヨリ御登山アラセラレタル神ナルガ、 天孫降臨ノ時ノ猿田彦ノ神ニアラザルヤ」
  3. 「五、 鵜戸神楽。 六、 鬼神」とあり、 浜砂正衛宮司によれば、 銀鏡の浜砂淡路守重賢が天正年間(1573−1592)に、 鵜戸大権現(鵜戸神宮)の別当になった時、 鵜戸神楽の長所を取り入れて神楽をまとめた。 これが銀鏡神楽だといい、 別名を鵜戸門流ともいう。 この他に源信流、 中原流という舞の型もあった(須藤 前出、 322頁)。 淡路守は後に銀鏡の神職として隠棲したという。



7番  幣指(ヘイザシ)

  二人。 素襖、 白袴、 ツマドリ、 腰幣、 扇。 鈴。 前拝みをして後方に飛び上がり、再び拝む所作がある〔avi VIDEO 10.2MB〕 法螺貝を吹く。 神屋の四方に幣を指して舞うことから幣指という。 西之宮大明神の地舞である。 みだれに入って活発になる。 神出現の時は、 法螺貝を吹く。 塩水役が出て清めて回る。  

  1. 「ハサミ舞、 四人舞、 西之宮大明神御降」
  2. 「銀鏡神社ノ地舞、 幣指、 地舞トハ右陳ベシ如クナリ、 以下皆同ジ」
  3. 「幣指」




8番  西之宮大明神(ニシノミヤダイミョウジン)

  一人。 千早、 大口袴、 面、 面棒、 冠、 腰幣、 太刀、 扇。 銀鏡神社の主神、 西之宮大明神の面様で、 宮司しか舞うことが出来ない。 先払役と塩湯役が清め、宜が先導、警護役の弓矢持ち二人を従え、氏子総代など全祭員が出る〔avi VIDEO 2.35MB〕 他の面様に比べてゆったりとしており、 威厳に満ちた舞振りをする。 沢山の賽銭が投げられ、 人々は畏まって手を合わせて拝む。 舞は鵜戸鬼神とほぼ同じである。 アマの下、 三尺を出ないように舞う。 神屋の周囲の参拝人を見つめ一回りして退場する。 懐良親王の顕現ともいう。 ハガサは昭和15年(紀元2600年祭)以降、 毛頭に変わった。 宿神も同じである。  

  1. 「西之宮大明神御降」(オリイ)
  2. 「銀鏡神社ノ御降」
  3. 「両神ヲリイ」。 両神とは西之宮大明神と宿神三宝荒神か。




9番  住吉

  四人〔avi VIDEO 7MB〕 素襖、 白袴、 ツマドリ、 腰幣、 扇。 舞は幣指とほぼ同じだが、みだれは全く異なる〔avi VIDEO 5.92MB〕 活発で威勢よく舞う。 神出現の時は、 内神屋で法螺貝をしきりに吹く。  

  1. 「幣指」
  2. 「住吉、 宿神様ノ地舞住吉四社神舞ナリ。 住吉四社トハ大海津見神、 上津綿津見神、 中津綿津見神、 下津綿津見神ナリ」
  3. 「十四、 幣指。 十五、 住吉。 十六、 シメ之荒神」の順で、 「両神ヲリイ」の前にはない。




10番  宿神三宝荒神(シュクシンサンポウコウジン)



  一人。 千早、 平袴、 面、 面棒、 冠、 腰幣、 太刀、 扇。 宿神社神主が御神体の面様を付けて厳かに舞う〔avi VIDEO 10.3MB〕 舞や神楽歌は西之宮大明神と同じである。 古くは銀鏡神社に西之宮大明神と一緒に祭祀されていたが、 江戸時代に征矢抜に移して祀った。 そのために「銀鏡神社両神」と言わる。 「両神」の神楽が終了する迄は、 神楽囃子は出してはいけないとされている。 参拝者は敬虔に崇拝して賽銭を投げて拝む。 アマの下、三尺を出ないように舞う〔avi VIDEO 4.3MB〕  

  1. 「宿神三宝稲荷大神オリイ」
  2. 「御宿神様御降」
  3. 「両神ヲリイ」


11番  初三舞(ハサンマイ)

  四人。 素襖、 白袴、 ハガサ、 腰幣、 鈴、 扇。 あらゆる神楽の基本とされる。 降神行事であり、 式三番の最初に舞うので初三番、 これが初三舞となった。 居り敷きという片足を前に出しての拝みなどに特色がある。  

  1. 「六、 ハサミ舞、 西之宮大明神。 七、 幣指、 宿神三宝稲荷大神」とあり、 六社稲荷の降居はない。
  2. 「五、 初三舞。 六、 鬼神地舞。 七、 鬼神御降。 八、 銀鏡神社地舞、 幣指。 九、 銀鏡神社御降。 十、 住吉。 十一、 御宿神様御降。 十二、 若男地舞。 十三、 若男様御降」で六社稲荷の降居はない。
  3. 「五、 鵜戸神楽。 六、 鬼神」「九、 若男天太王命神楽、 両神ヲリイ」で六社稲荷の降居はない。


12番  六社稲荷

  一人。 千早、 平袴、 ハガサ、 面、 面棒、 腰幣、 太刀、 扇。 六社稲荷社の社人が御神体の面を被って舞う〔avi VIDEO 11.4MB〕 舞は三足後方に飛びさがる部分がないだけで、 鵜戸鬼神と同じである。
 


13番  七社稲荷

  一人。 千早、 平袴、 ハガサ、 面、 面棒、 腰幣、 太刀、 扇。 七社稲荷社の社人が御神体の面を被って舞う。 舞は三足後方に飛びさがる部分がないだけで、 鵜戸鬼神と同じである。 この神は山の神で七鬼神の主、 あるいは七コウザキと見做される。 最後に初三舞の四人が舞う。  

  1. 「稲荷ノ舞地舞モ共ニ明治年間中頃ヨリ始メラルタルニ依リ、 番外ニテ神楽順番ハ附ケテハ無キ筈ナリ、 然レトモ両神ノ御降後、 シメ拝ミ又夜食休ミノ時ノ後初メニ御降アルナリ」。 六社稲荷と七社稲荷は明治時代中期以降、 「両神」(西之宮大明神と宿神三宝荒神)の降居の後、 夜食をとってから行なった。




14番  神崇(カンシイ)

  四人。 白衣、 白袴、 ツマドリ、 赤襷、 太刀、 鈴。 カンスイ、 またはカンシともいう。 袈裟掛けにした赤襷を掛けて大きく跳び舞う〔avi VIDEO 4.3MB〕 太刀を使った勇壮な舞で、 神屋の中央と東西南北の合わせて五方を祓い清める。 さらに五方を守護する五行神に守護を祈る。 途中でみだれ(太鼓などの楽器と舞が急調子になること)が入り、 神主と五方位の神名を問う問答がある。 最後に中央の埴安命が現われて舞う。 基本的には方位固めで、 祭場から悪いものを追い払って鎮める。 ここから神楽歌が入る。  

  1. 「八、 シメ奉幣。 九、 神崇。 十、 将厳」の順である。 「神崇、 四人剣之舞、 四方立之舞ニテ五行神問答アリ」
  2. 「十三、 若男様御降。 十四、 神崇。 十五、 将軍」の順である。 「神崇、 此神楽ハ天ノ五行神ノ守護ヲ説キ、 又地ノ五行ノ神ノ守護ニ依リ、 東南西北中央共ニ無事平穏ヲ祈ル舞ナリ」(天の五行とは木星・火星・土星・金星・水星、 地の五行とは木・火・土・金・水、 これが合わさって万物となり、 人間も天地五行と相互に影響)
  3. 「カンスイ」


15番  荘厳(ショウグン)

  二人。 白衣、 白袴、 ツマドリ、 赤襷、 黒脚絆、 鈴、 弓、背中に矢二本を指す〔avi VIDEO 8.3MB〕 ショウグンと言う。 「弓将軍」とも言う。 赤襷を十文字にする。 軽快な足さばきで活発に跳び跳ねるように舞う〔avi VIDEO 12.2MB〕 途中で「柴荒神」が入る。  

  1. 「十、 将厳。 十一、 柴荒神。 十二、 ツルギ舞」の順。 「将厳、 二人舞、 弓矢二神之舞、 終リニ柴荒神ト共ニ舞納ム」
  2. 「将軍、 荘厳ト云ヒ豊岩立神、 櫛磐立神ノ弓矢ヲ持ッテ御殿ノ御門ヲ守護シ玉フ所ナリ」。 天照大神の居ます宮殿の御門を守護する二神が、 大神の田を荒そうとする須佐之男命を弓で防ぎ、 御田を守護する様子を表わすという説明である。
  3. 「荘厳弓、 征矢乃二神豊磐窓命、 櫛磐窓神命ノ神楽也」




16番  柴荒神(シバコウジン)

  一人。 千早、 緋袴、 ハガサ、 面、 面棒、 腰幣、 太刀、 扇。 太刀は腰に、 背中には榊枝を差す。 「はらかき荒神」ともいう。 面は鬼面を使い、 憤怒の形相で荒々しく舞う〔avi VIDEO 15.0MB〕
  途中で三人(狩衣、白袴、烏帽子、太刀、鈴、扇、うやまい幣)の地舞が入り〔avi VIDEO 8.2MB〕 柴荒神の舞を真似するように舞う。 太鼓の上に腰を掛けて、 面棒を杖にして怒り狂った荒神が、 カミ・タカの幣を持つ神主と問答(ウヤマヒ、 テイ)をする。 荒神が柴のいわれを問い神主が答え、 神主が鏡・玉・青幣・白幣のいわれを荒神に問うという形式である。 宇宙の根本神が荒神の形で現われ、 柴(榊)を初め森羅万象全てが自分の所有物であり、 柴の一つも勝手にとってはいけないという。 問答が終わり、 荒神の怒りが鎮まると、 手を引いて退場させる。 荘厳と一緒に舞納める。  

  1. 「柴荒神、 一人舞、 舞終リテ神主出テ柴問答アリ」
  2. 「荒神、 此神ハ皇神ニハアラザルヤ、 荒神ノ説明即天地開闢ヨリ以来今日迄ノ事ヲ説カルル時ノ話相手ナリ」。 「十五、 将軍。 十六、 荒神。 十七、 神主」の順で一続き。 「神主ト云ヒ又ウヤマヒトモ云フ」
  3. 「七、 荘厳弓。 八、 荒神柴問答。 九、 若男」の順。 「荒神柴問答、 両神オリイ間ニ入ル」


17番  一人剣(ヒトリケン)

  一人。 白衣、 白袴、 ツマドリ、 赤襷、 黒脚絆、 鈴、 小太刀。 神の恵みで豊作であることの喜びを表わす。 腰の襷をとり四つ折りにして片手で打ち振って舞う。 一回転して襷を十文字にかけ小刀使いという軽業のような舞になる〔avi VIDEO 6.23MB〕 両手で小刀を逆手に握り、 交互に胸の上方で十文字に振りかざして舞い、 四方を一回転する。 動きの早い若者向きの舞である。  

  1. 「ツルギ舞、 一人ニテツルギ、 タスキヲ持チテ舞」
  2. 「剣舞、 一人剣ト云フ」
  3.   なし


18番  若男大神(ワカオトコオオカミ)

  1. 「太玉命、 若男ト申ス男神之舞」。 「十六、 神和。 十七、 太玉命。 十八、 住吉。 十九、 室の神」の順。
  2. 「若男様御降、 天太玉命ノ舞ナリ」
  3. 「若男、 天太玉命神楽」。 「八、 荒神柴問答。 九、 若男。 十、 神ナキ」の順。




19番  神和(カンナギ)

  一人。 千早、 緋袴、 ハガサ、 面、 面棒、 腰幣(榊)、 太刀、 扇、 榊柴二。 天太玉命(フトダマノミコト)の舞とされている。 総て鵜戸鬼神と同じである。 舞は三足後方に飛びさがる部分がないだけで、 鵜戸鬼神と同じである。  

  四人。 素襖、 緋袴、 烏帽子、 女面、 扇子、 うやまい幣二。 巫女(カンナギ)の舞とされる。 女性の装束を着て、 女面をつけ、 烏帽子を被って緩やかに舞う。 舞は三足後方に飛びさがる部分がないだけで、 鵜戸鬼神と同じである。  

  1. 「神和、 女神一人舞」
  2. 「神和、 大宮売命天照大神ニ侍御シ玉フ処ナリ」
  3. 「神ナキ、 天鈿女命神楽也」



20番  綱荒神(ツナコウジン)

  一人。 千早、 緋袴、 ハガサ、 面、 面棒、 腰幣、 太刀、 扇。 初めは二人(白衣、 白袴、 ツマドリ、 赤襷、 鈴、 榊)の地舞がある。 肩から襷を掛けて舞う。 その後、 綱荒神が憤怒の形相で現われ、 地舞の二人が加わり激しく舞う。 その後、 綱荒神は太鼓に座り、 足元に龍体をおき、 神主が荒神に御綱のいわれを問う「綱の問答」をする。  

  1. 「綱荒神、 地舞ト申シ二人榊ヲ手ニシテ舞フ中途二荒神舞アリ、 終リテ神主綱問答アリ」
  2. では三部構成で、 「綱荒神地舞、 前述ノ如シ。 綱荒神、 綱ノ曰クヲ説キ神屋一切ノ事ヲ説キ玉フナリ。 綱荒神、 ウヤマヒ、 シバノ荒神ウヤマヒ同意義」ウヤマヒとは問答のこと。 「十八、 剣舞、 十九、 綱荒神、 二十綱荒神、 二十一綱神楽、 二十二、 伊勢神楽」の順である。
  3. 「綱問答」


21番  綱神楽(ツナカグラ)

  四人。 白衣、 白袴、 白鉢巻、 赤襷、 黒脚絆、 太刀、 鈴、 龍体二。 「蛇切り」ともいう。 襷は袈裟襷とし、 左手に太刀、 右手に鈴を持ち、 四人が雄雌二体の龍を飛び越えながら勇壮に舞う。 その後、 龍体を先地から次々に一刀のもとに切る〔avi VIDEO 9.83MB〕 切るとすぐにそばに控えている祝子が白衣で切口を押さえて隠す。 綱は祝子数人が境内横(西側)にある荒神林(荒神山)に納める。 龍体を切ることは、 智剣で悪念妄想を断ち切ると解釈されている。  

  1. 「綱神楽、 四人剣ノ舞、 龍神ニ神ノ切断ニテ舞納ム」
  2. 「綱神楽、 右荒神ヨリ問答ニ依リ申受ケ切断決定ノ舞ナリ」
  3. 「綱切断」


22番  伊勢神楽(イセカグラ)

  一人、 狩衣、 白袴、 烏帽子、 太刀、 鈴、 御幣二本。 一人、 烏帽子に扇子二本を持って一隅に座る。 「大神神楽」ともいい、 伊勢の大神(天照大神、 アマテラスオオミカミ)に奉納する。 天児屋根命(アメノコヤネノミコト)の舞とされる。 宮司が舞う決まりである。 腰に太刀を差し、 左手にカミとタカの御幣を持ち、 右手に鈴を持って舞う。 カミとタカは神屋の周囲の注連とアマの四面にも取り付けてある。 この神楽は始まりに際して法螺貝を吹いて神出現を促すのであり、 両神の降居と同様に重くみられていた。 天照大神が岩戸に隠れて世の中が暗闇になったので、 神々が集まって相談しする様子を表わす。 神屋の隅に天の岩戸を表わす屏風があり、 その中に天照大神が烏帽子を被って座っている。 神楽はこの岩戸に向って舞納める。 この頃、 しらじらと夜が明ける。  

  1. 「大神神楽、 天児屋根之命岩戸開之舞」
  2. 「三番続キ一番伊勢神楽、 天児屋根命ノ舞ナリ」、 一番伊勢、 二番手力雄神、 三番戸隠様、 その後に神和と繋がる。 いわゆる岩戸開きの三番であろう。
  3. 「伊勢神楽、 天児屋根命」


23番  手力男命(タチカラオノミコト)

  一人。 素襖、 白袴、 毛頭、 面、 腰幣、 太刀、 鈴、 御幣。 手力男社の神主が御神体の面を被って舞う〔avi VIDEO 3.9MB〕 左手にカミとタカの御幣を持ち、 右手に鈴を持って低い姿勢で舞う。 岩戸の前の暗闇で、 手さぐり足さぐりをしながら七日七夜舞い続けた様を表わす。 岩戸開きの舞で、 天照大神を引き出す前段である。  

  1. 「手力男命、 岩戸開之舞」
  2. 「二番多力様、 手力雄ノ神、 未ダ暗夜ノ時ノ舞ト、 天照大御神様ヲ窟戸ヨリ御連レ出シ玉フ処ナリ」
  3. 「手力男命」


24番  戸破明神(トガクシ)

  一人。 千早、 緋袴、 頬被、 面棒、 小太刀、 扇子。 戸破はトガクシと読み、 戸隠、 或いは戸被とも書く。 滑稽な面をかぶり、おかしみのある舞で岩戸開きを行なう〔avi VIDEO 6.3MB〕 舞ながら岩戸を取って投げる。 開いた後は日の光に目がくらんで、ひれ伏して後ずさりして終わる〔avi VIDEO 8.2MB〕 手力男命(タジカラヲノミコト)の化身と言われて同一視される。  

  1. 「戸取妙神、 手力男命同一神ニシテ戸破之舞」
  2. 「三番戸隠様、 之レハ手力雄ノ神様ガ天之窟戸ノ扉ヲ引開ケ玉ウ処ナリ」
  3. 「戸取明神、 是モ手力男命、 戸ノカケヨリ戸ビラヲヒラキ玉ウニヨッテ戸取ノ明神ト申ス」




25番  白蓋鬼神(ビャッカイキジン)

  一人。 白衣、 白袴、 ハガサ、 面、 面棒、 扇、 素襖。 素襖を襷にする。 「あまほめ」とも言う。 アマ(天)を対象とする舞である〔avi VIDEO 8.3MB〕 ひょうきんさがある。 白蓋に吊した紙包であるモノザネ(物種)を面棒で突きながら舞う。 突くたびに五色の切紙が舞い落ちて紙吹雪を散らす。 最後には、 紙包が破れて全ての切紙が落下する。 モノザネは、 宇宙万物の種と言われ、 万物はこれから生じたとされる。 この舞は天地創造を表わすとも言える。 また、 天の霊徳をたたえて舞うことから「あまほめ」と言われる。  

  1.   なし
  2. 「白蓋鬼神、 白蓋トハ神事ノ庭ニ垂レ覆物ノ曰クヲ説キ玉フ神也」
  3. 「十一、 白界鬼神。 十二、 笠乞鬼神」




26番  火の神舞

  二人。 女の衣裳、 ツマドリ、 鈴、 小幣二。 「おきえ」とも言う。 竃神の舞、 一種の機織りの舞とも言う。 御幣を使って舞いながら、 竃の形・炎・火伏せを表わす所作で舞う。 台所から出て舞い、 下の地では烏飛びと称して大股で飛び跳ねて回り、 最後に台所に行って舞い納めて、 酒肴で直会をする。 火の神や竃神は両部神道では荒神と習合している。  

  1. 「オキエ、 女神二神、 保食神之舞」
  2. 「火之神舞、 竃ノ神、 奥津彦、 奥津姫ノ神ノ舞ナリ」
  3. 「ヲキエ」



27番  室の神(ヘヤノカミ)

  一人。 女の衣裳、 面、 鈴、 御幣二、 テゴ(篭のこと、 中に杓子、 摺子木、 へそ飯の飯型=メンパを入れる)。 女神である「へやのかみ」の舞。 別名は「杓子面」(しゃくしめん)という。 天地創造から人類発生に至るまでの説明を行ない、 子孫繁栄を願う。 女性の着物を着て帯を締めて腰にテゴを下げ、右手に鈴、左手の小幣二本を持って舞う〔avi VIDEO 8.3MB〕 上品で優雅に舞うが、 途中で摺子木などを取り出して、 イザナギノミコト、 イザナギノミコトの国造り、 男女の道の始まりなどの説明を、 太鼓役と掛け合いで長々とする。 摺子木は男根を象徴しており、 これをさする性的な仕草が特徴である。 道具を使っての舞の後、 ズリ面を被った鬼神七人(白衣、白袴、面、頬被、素襖の袴)が登場して、 仰向けになって足をからませるなど室の神にからむ〔avi VIDEO 12.1MB〕 室の神は摺子木を持ち、 七鬼神と戯れる。 滑稽な身振り手振りに終始する。 室の神は天鈿女命(アメノウズメノミコト)に見立てられている。  

  1. 「室之神(シャクシ面)、 女神之舞國造ノ問答アリ」
  2. 「部屋神ノ舞、 天之宇愛売命ノ岩屋ノ前ニテ俳優ノ舞ト、 竃ノ神即チ天之安河原ニテ八百万ノ神集ヒ玉ヒ御神楽ヲ初メ玉フトキノ、 御膳部及御饌都種ヲ配リ玉ヒ、 又天津御量ノ初リナド教ヘ玉フ、 多クノ神ノ代表者ナリ」
  3.   なし


28番  七鬼神(シチキジン)

  一人。 女の衣裳、 女面、 頬被、 扇。 赤子を背負う。 「子すかし面」ともいう。 これは赤子をあやす意味である。 老女の着物をきて、 赤子を背負い面をつけた女神が、 扇子を両手に持って赤子をあやしながら登場する。 ゆっくりしたすり足で、 四方を舞う。 後から七人の鬼神が続き、お互いにつついたり叩いたりしてふざけあい、笛と太鼓に合わせて舞いつつ神屋を巡る〔avi VIDEO 12.2MB〕 七人鬼神の衣裳は、 室の神の鬼神と同じであるが、 一人は面棒、 六人は幣を持つ。 子供をあやす所作を主体とし、 子沢山を表わすとも見られる。  

  1. 「七鬼神、 女神一人ト男神六神稚児ヲアヤス舞」
  2. 「七神鬼、 子守ノ神ナリ」
  3.   なし




29番  獅子舞(シシマイ)

  一人、 白衣、 白袴の上から獅子面を付ける。 山の神一人(白衣、 白袴、 頬被に面、 素襖の襷、 面棒)。 獅子が暴れて山の作物を害することがないように、 山の神に守護を願う舞とされる。 山の神は面棒を右手に持ち、 左手で獅子の尾を握る。 面棒を持つ他の六神もその後に続く。 笛と太鼓に合わせて、 顔を面棒の先で軽く叩きながら舞う。 獅子は転んで背を床にこすりつける所作を四方で行なう。 猪のニタズリであるという。 ニタとはヌタとも言い、 湿地を意味する。 猪はヌタウチといって体を稲田、 湧水地、 小川、 湿気を含んだ土の上で行ない、 ニタズリという松のような木肌の荒い幹に体をこすりつけたりもする。 ダニで体がほてるので冷やすのだという。 山の神は尾をつかんだままで、 面棒を振り上げながら獅子を守る。 面棒を持つ鬼神たちは室の神の七鬼神と同じである。  

  1. 「シシ舞、 猪之神七神ニテ。 シシヲ遊セル舞」
  2. 「獅子面様、 之レハ山ノ神ノ禽獣ヲ守護シ玉所ナリ」。 「三十一、 獅子面様。 三十二、 笠取鬼神。 三十三、 獅子取鬼神」の順。
  3. 「獅子舞」。 「十八、 カンスイ。 十九、 獅子舞。 二十、 伊勢神楽」の順。


30番  笠取鬼神(カサトリキジン)

  二人。 白衣、 白袴、 ハガサ、 頬被に面、 素襖の襷、 面棒。 子供八人(普段着のまま衣笠を頭に付ける)。 「衣笠(みかさ)鬼神」ともいう。 子供たちが被る衣笠は早乙女が五月雨の風雨を防ぐ笠であり、 これを被って天照大神の御田の田植えをするという趣旨である。 風雨を穏やかにして豊作を守護する神が衣笠鬼神である。 稲の成長の無事を祈願する舞とされる。 子供八人が早乙女となる。 アマに吊してある笠を降ろして、 八人の早乙女が頭にかぶり四人ずつ向きあい田植え、 草取りの所作をして舞う。 そこに鬼神が現われ、 頭が高い、 尻が高いといっては面棒で叩く。  

  1. 「笠取鬼神、 ミカサ山ノハツノ笠ヲ取降スノ舞」と「八乙女、 八人ノ乙女、 田植之舞」の二つから構成されている。 「二十六、 笠取鬼神。 二十七、 八乙女」
  2. 「笠取鬼神、 之レハ伊勢ノ御田三ケ所有田植ノ時及田耕又草取ノ事ヲ教ヘ玉フ処ナリ」
  3. 「十二、 笠乞鬼神。 十三、 御笠ネリノコト」の二つから構成されている。


31番  鎮守(クリオロシ)

  四人。 白衣、 白袴、 鈴。 「くりおろし」ともいう。 左手にシメから外神屋に張り渡した注連縄の端を持ち、右手に鈴を持って舞う〔avi VIDEO 10.3MB〕 最後に注連綱を引き抜き、 シメを倒してヤマを壊す。 神楽が成就したので、 感謝の気持ちをこめてシメを下ろす。 神々は元の場所に戻って鎮まっていただき、 この村を安泰にしていただくように祈願する。  

  1. 「クリ降、 昇神行事、 シメヲタオスノ舞」と「シメ納、 シメヲタヲシテ解キ納ム」からなる。 「二十八、 クリ降。 二十九、 シメ納。 三十、 神楽七番十五日神殿祭奉納神楽。 三十一、 宮角力」
  2.   なし
  3. 「クリ下シ」。 「十六、 シメ之荒神。 十七、 クリ下シ。 十八、 カンスイ」の順。




32番  ししとぎり

  二人。 猪狩の様子を細かに演じる狂言風の神事で。 「狩法神事」ともいう。 シシトギリとは「猪の通ったあとをたずねる」という意味である。 セコとマブシが主役(豊磐立命、 櫛磐立命に見立てる)で、 これに狩行司役を加えて猪をとる様子を面白可笑しく演じる〔VIDEO 1〕。 壊したヤマの椎の木や柴を敷いて広げた所を山として、 ここで狩の所作をする〔VIDEO 2〕〔VIDEO 3〕〔VIDEO 4〕。 見物する村の猟師たちは、 この時に言いたてられるマブシワリに耳を傾ける。 マブシとは猪狩りの時に、 猪の通り道であるウジに待伏せする役で、 猟師をそれぞれに割り当てることをマブシワリという。 狩猟に独特の「狩り言葉」が使われる。  

  1. 「狩法神事、 シシトギリ、 豊磐立、 櫛磐立二神シシ狩ノ舞」
  2. 「獅子取鬼神、 之レハ狩猟神、 火火出見ノ尊ノ舞ナリ」
  3.   なし



33番  神送り

  三人。 白衣、 白袴、 ハガサ、 素襖の襷。 頬被りして面を前後に被った二人が、 袴のもも立ちを高くとり、 素足のまま臼を抱える。 臼は四つ折りしたむしろの上に乗せる。 その後から頬被りに面をつけた男が
「うしろたの さきにはホイホイ まえのたに なおりてしりさいた にいさいた ホイホイ」
と歌い、 「なおりて」で杵を頭上で回し、 「しりさいた」で前を突くような所作をする。 臼を担いだ二人と、杵を振り回す者、面を被った三人が、笛や太鼓やすりがねに合わせておどけた所作で練り歩く様が笑いを誘う〔avi VIDEO 6.7MB〕 神屋とその周辺を一巡して出店を冷やかし、 見物人は臼に賽銭やお菓子を入れ、 出店の人も品物を入れる。 最後は内神屋から社務所を通って台所に行く。 祝子たちは折敷膳に盛って一列に並び、 扇で折敷膳の縁を叩き、 米を撒きながら、 ハラエテターマエ、 キヨメテターマエと唱えて、 内神屋から台所へと追い掛けていく。 最後は竃にて舞納める。 田遊びの様相があり、 臼や杵は五穀豊饒、 子孫繁栄を祈願する。 それ自体も臼の神とされる。 村所では「火の神納め」といい、 お釜様の所で舞って終わる。  

  1. 「神送リ、 伶人総員、 二神臼ヲ運フ後方ヨリ一神音頭取リツツ進ム、 他之伶人室内ヲ奏楽ニテ送ル、 シカシテ釜戸ニ至リ神ヲ納ム」
  2.   なし
  3. 「神送リ成就神楽」



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