映像「過関」二題

 映像1 貴州省徳江県
 儺堂戯の過関
(3分36秒) 1995年
貴州省徳江県土家族の儺戯は多彩な内容を含むことで比較的よく知られている。この儺戯のなかでの過関は9歳になる子供の生まれ変わりの儀礼であった。

 この儀礼では、子供の霊魂が煞神にとりつかれないように、「関」ごとに十二いる煞を払っていく。
 茶碗を十二個円状に伏せて並べ、十二霊関*)を象る。この上を土老師(司祭者)と子供が歩いていく。このとき土老師は令牌(リンパイ)という木片で作った巫具で各関の陰陽を占いつつ渡っていく。関の卦が陰のとき、茶碗は神棍( 杖) により突き壊される。そして、最後に、子供は土老師に導かれて筒のなかを抜けて厄払いを完了する。

 *) 地府にある十二の関という考えは地府十殿に二つを付け加えたもの。この十二の関にはそれぞれ閻君がいて、土老師は彼らに向かって子供の霊魂を奪わないように、身体に返してくれるようにと依頼する( 田仲一成『中国巫系演劇研究』、1098頁) 。なお、こうした地府の十王、十二王に霊魂の通過を祈願する儀礼は済州島の十王迎え(シワンマジ)という死霊祭にも反映されている。その巫祭の淵源は中国の道教儀礼にあるということになろう。過関guoguanの儀は中国南部ではさまざまなかたちで広くみられる。

 

子供の過関。土老師の右に立つのが9歳の主人公。この筒をくぐり抜けると煞(悪しき気。厄)を落とすことができ、新生を得る。

 

 映像2 福建省莆田地区
 北斗戯の過関(2分17秒) 2000年
 福建省莆田地区の北斗戯という傀儡戯のなかでも過関がみられる。ここでは、傀儡を用いて二時間ほど一定の物語を演じたあと、最後の段階で過関の祭儀をやる。
 たとえば、祭祀の依頼者側の子供が舞台上に連れてこられる。そして、陳靖姑すなわち臨水夫人の先導下、人生の関を越えていく。
 こうして、その子供はさらに新たなる生命力を得ることになる。。この莆田の儀礼のばあい、子の父母は何ヶ月も前から傀儡師と相談し、そのための経費を貯えておいた。なかなかありがたい思いやりといえる。
 しかも、こうした生育儀礼は福建省では至る所で日常的におこなわれている。


陳靖姑「臨水夫人」(右端)による過関の儀。背負われている子は祈主の長男。この儀により健やかな成長が祈念される。



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