(松柏社 1900円)

小谷真理氏によるエイリアン文学批評の最前線。佐藤哲也氏によるスペシャル・レビューを掲載!!

 


『ピグマリオン』の作者として名高いイギリスを代表する作家・評論家のバーナード・ショー。小説家、劇作家、さらには社会運動家としての側面も持つショーのもうひとつの顔、それは音楽評論家としての活躍だった。その出発点となったワーグナー評論の全訳が登場。訳者による解説も読み応え十分。(新書館 2400円)


 


岩波講座 『文学』4 <詩歌の饗宴>
編集委員:小森陽一・富山太佳夫・沼野充義・兵藤裕己・松浦寿輝

岩波書店から続々と刊行されているシリーズ『文学』の最新刊が発売されました。第4巻は<詩歌の饗宴>です。「形式と技法」「古典の空間」「現代詩の冒険」「身体と言語」という四つのセクションに分かれており、それぞれ3編の論文が収録されています。また松浦寿輝氏、吉増剛造氏、夏石番矢氏、城戸朱理氏という豪華メンバーよる座談会では、クリエイターの生の声を聞くことができます。論文の中では、「身体と言語」に収録されている渡部桃子氏の『「息づく思想、燃える言葉」---女たちのセンチメンタル・ポエトリー』が、おすすめ。ディキンスン、スタイン、リッチというアメリカ女性詩の伝統をたどった興味深い論考になっています。(3400円+tax)


上岡伸雄
『現代英米小説で英語を学ぼう』
(研究社)

ドン・デリーロ、ティム・ロビンス、イシュメイル・リードなど、現代アメリカ文学を代表する作家たちの作品を翻訳していらっしゃる上岡伸雄氏。その上岡氏が、現代アメリカ文学の魅力を「翻訳」という作業を通じて語っている本書は、上質な翻訳論であると同時に、アメリカ文学の入門書になっています。翻訳はたんに英語を日本語に訳すものではなく、その背後にひろがる作家の思想や文化的な背景を理解しなければいけない・・・言い換えるなら、その作家・作品の最大の理解者にならねばならず、かつ日本語の技量も問われる、ということがよくわかります。上岡氏の講義を拝聴しているかのような口語体の文章で書かれており、とっても読みやすいです。サリンジャー、ボネガット、カーヴァー、アーヴィング、アトウッド、オースター、ラヒリ、イシグロ、デリーロらの原文に接しながら、アメリカ文学の魅力を堪能していただきたいと思います。(1700円+tax)


常山菜穂子
『アメリカン・シェイクスピア―初期アメリカ演劇の文化史
(国書刊行会)

新進気鋭のアメリカ文学者・常山菜穂子氏が、このたび初期アメリカ演劇に関する研究書を上梓されました。いまやブロードウェイなどに代表されるように、アメリカ演劇はわたしたちにもなじみのものになっていますが、しかしその歴史をわたしたちは知っているでしょうか?いったい植民地時代以降、いかに発展し、どのような役割を担ってきたのか? そこでアメリカ化していくシェイクスピア演劇を縦糸に、大衆文化・娯楽の歴史を横糸に、社会的背景を緻密に調べ、独自の論考をほどこした知的刺激に満ちた一冊!(3200円+tax)


伊藤詔子・吉田美津・横田由理 編著
『新しい風景のアメリカ』
(南雲堂)

いまやアメリカ文学研究の中で、重要なジャンルを担うエコクリティシズム。ラルフ・ウォルドー・エマソン以来、アメリカ文学・文化の中で重要な「自然」という概念は、20世紀に入りネイチャー・ライティングと結びつき、批評研究の分野にも大きな影響を与え続けています。そのエコクリティシズムの実践である浩瀚な論文集が刊行されました。ヘンリー・デイヴィド・ソロー研究の第一人者である広島大学の伊藤詔子先生を中心に編まれた20本の論文は、通読することで、アメリカにおける「自然」の重要性が理解できる。(6500円+tax)


鈴木 透
『実験国家 アメリカの履歴書』
(慶應義塾大学出版会)

誰もが知っている国、アメリカ。毎日の報道や音楽、映画などの娯楽などの食生活を通じて日本人にとって慣れ親しんでいるはずの国、アメリカ。しかし私たちは「アメリカとはいったいどのような国なのか」という問いを繰り返さざるをえないほど、この国は矛盾と魅力に満ちているように思われる。その問いに答える一冊の本が登場。慶應義塾大学教授・鈴木透氏の手による本書は、アメリカ入門にまさにふさわしい一冊! アメリカを好きな人にも反感を持っている人にも読んでもらいたい(2400円+税)


東 直子
『東 直子集』
(邑書林)

歌人・東直子氏の第一歌集、第二歌集を含む、これまでの全作品から自選したよりぬきの短歌と、エッセイをおさめた歌集が発売されました。短歌ってどんなの? と思っている人や、むずかしいんじゃないの? と思っている人に薦めたい一冊。凝縮されたことばの美しさを感じます。「ふたりしてひかりのように泣きました あのやわらかい草の上では」(1300円+税)

 


バーバラ・チェイス=リボウ『大統領の秘密の娘』(作品社)

1995年の2月に、資料収集のためアメリカに三週間ほど滞在したときのこと。訪れるどの書店にも、店頭のいちばん目立つところに山積みにして陳列していた新刊書がありました。そのタイトルは、_The President's Daughter_(1994年)。トマス・ジェファソンの禁断の愛を扱った歴史改変小説として、その時期にもっとも評判になっていた作品のひとつでした。

分厚いハードカバーのこの作品を購入して読み出すや、そのおもしろさにまさに釘付け!!になってしまった編集長。ページをめくるのがもどかしいくらい、ドライヴ感があるスリリングな物語。読み終わったときは大きなため息をひとつついたことを覚えています。

1822年、ヴァージニア州モンティチェロにあるトマス・ジェファソンの屋敷を、ひとりの女性があとにした。彼女の名はハリエット・ヘミングス、この物語の主人公である。ジェファソンの愛人となり、5人の子供を生んだ黒人女性奴隷サリー・ヘミングス。その子供のひとり、ハリエットは二十一才の誕生日を迎えると北部へ逃亡し、「白人」としての暮らしをスタートさせた。自分の過去をいっさい隠し、黒人ではなく「白人」として、奴隷ではなく「自由人」として、そして大統領の娘ではなく「孤児」としてやりとおす(passing)ことによって、新たな人生を謳歌するはずだった。しかし、彼女が隠さねばならない「過去」は、あまりにも大きく、またあまりに危険なものだった…。

自分のアイデンティティの証明や、またあまりにも恣意的で偶発的なものごとに左右される運命を、ハリエットはどのように切り抜けていくのか。歴史上の人物や、南北戦争前後のアメリカの人種観など、史実を交えながらも、フィクションならではの物語展開は読者の知的興奮を誘います。

この小説をもっとも早い段階で日本に紹介した訳者・下河辺美知子氏による巻末の解説には、ジェファソンをめぐる歴史的背景や、ジェファソンをめぐるスキャンダルの経緯、およびヘミングスの子孫についてなど、有益な情報がぎっしりとつまっている。

待望の翻訳です。ぜったい読んで損はありません!!