山田風太郎『妖異金瓶梅』
廣済堂出版,1996. 476p. (廣済堂文庫)

 『三国志』も『水滸伝』も何度も読んだが,『金瓶梅』は読んだことがなかった。山田風太郎『妖異金瓶梅』は,買ってきたもののさほど読みたいと思ったわけではない。しかし,読み始めれば,他の山田風太郎の小説と同じく,最後まで一気に読み通さざるをえなくなった。これが,本家の『金瓶梅』とどれほど内容的な関連があるのかわからないが,これはこれで独立した物語であり,まごう方無き傑作である。西門慶は,常時,7,8人の妾と一緒に住んでいる。その中の第5夫人である潘金蓮が主人公である。6年間に書かれた14話の短編からなる連作であるが,前半の10話では,殺人を含む猟奇的な事件が次々起こり,その犯人は,全て潘金蓮である。事件の真相を知るのは狂言回しの男だけであるが,この男が口外することはない。これが単なる倒叙型のミステリ仕立てで終わらないのは,この潘金蓮が類型をこえた人物だからである。ちょっとした復讐や愉悦のために,巧妙な手順で人を陥れる狡猾な悪女であるが,後半では,もっと深い欲望で動いている,強い人間であることがわかる。こうした,特異な人間像を,頭の中だけで作り出し,さらには,個別の短編を見事につなぎ合わせて,悲劇的な結末に持っていくという手腕は山田風太郎ならではであろう。

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