恩田陸『月の裏側』
B−
幻冬舎,2000,377p.

 舞台は,九州の柳川を模した町中に掘割をめぐらした町である。おそらく30代の東京の音楽プロデューサが,引退した恩師を訪ねてこの町を訪れる。ちょうど梅雨であり,毎日雨が降り続く。しかしこの静かな町では異変が起きている。古い家に住む老人が3人,わずかなすきに姿を消し,ほぼ1週間後にまた姿を現すといった事件が続いている。しかし,さほど町の人々が気にしているわけではない。恩師の娘と新聞記者の4人でこの事件を探っていくというホラーである。一人一人の登場人物には個性があり,また文体もきちんとしている。前半から中盤にかけてはよくできている。日本らしい古い町でスティーブン・キングのように無気味な出来事が起きる。キングの場合,恐ろしげなものと戦うのは,10代の青少年であるが,ここでは中老年であり,この変異に為すすべはない。最後まで読ませる力はあるが,どこかで読んだことがあるような気がする点と結末あたりの処理のまずさが難点である。

[索引]