井上尚登『T.R.Y.トライ
角川書店,1999. 373p.

 横溝正史賞受賞時のタイトルから改題したのであるが,依然として分かりにくいことにかわりはない。全く中身を推測できない書名も困りものである。時代は1911(明治44)年で,舞台は上海と東京,主人公はロシア,中国を渡り歩いている伊沢修である。中国で革命を起こすための武器を盗み取るためのコンゲームであり,かなり複雑な構成となっている。革命への密かな情熱,伊沢を中心とした関虎飛,陳,パクらとの友情といったことも入っている。日本のミステリ作家に欠けている「ユーモア」があるのは実によいが,物語としては多くのことを盛り込み過ぎて,説明するのに手一杯で終わっている。登場人物と相互の関係は類型的なままであり,全体として薄味である。

[索引]