A・J・クィネル『トレイル・オブ・ティアズ』
B+
Quinnel, A.J. The Trail of Tears. 大熊榮訳. 集英社,2000. 399p.

 謎の作家クィネルは,ここのところ無敵の傭兵クリーシーシリーズを書いていたが,ここで正体を明らかにし,これまでとは違った趣向となった。世界でも屈指の腕を持つ脳外科医ジェイソン・キーンがニューヨークで誘拐される。ご丁寧にも誘拐犯はキーンは自殺したと見せかける。彼が連れてこられたのは,テネシー州にある国立人間資源研究所である。ここの所長のレイヴンズバーグ提督は,政界に隠然とした影響力を持つ人物であるが,国の予算を使って,内密にクローン人間の研究をしている。その過程でどうしても優秀な脳外科医が必要だった。別居していたキーンの妻は,残された遺書に不審を抱き,さらにニューヨーク市警の女性捜査官の援助で,糸をたぐっていく。一方,上院議員ルシエル・リンは,獣医の娘からレイヴンズバーグがおかしなことをしているのを知り,調査を始める。展開はスピーディで最後まで読ませるが,度重なる偶然があり,前半では周到な計画のもとに行動しているにもかかわらず,途中から間抜けになるレイヴンズバーグ提督が,単なるカルト集団のグルで終わるといったところが興ざめである。この続編が出るのなら,上院議員ルシエル・リンではなく,チェロキー族のスーパーマンであるレッドバード・ギャレットが主役となる可能性が高い。

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