オースティン・ライト『ミステリ原稿』
right, Austen. Tony and Susan. 1993 吉野恵美子訳. 東京,早川書房,1997. 409p. (ハヤカワ・ミステリ)

 前夫から送られてきた『夜の獣たち』というミステリの原稿を夫が出張している主婦が読むという話である。その『夜の獣たち』の主人公は,数学の大学教師で,妻と娘と一緒にドライブ旅行中に暴漢に襲われて,二人を殺されてしまう。そして,警察が見付けた犯人との対決がある。このミステリ原稿は,インテリが,こうした事件に遭うとどうなるかという被害者の心理を描いているのが特色であるらしいが,目新しいわけではない。こうした面倒な趣向があるのだから,きっと,最後に何か大きなことか意外なことが起きるはずだと思って我慢して読んだが,そんなことは全くなかった。無理に目新しいところを探れば,ミステリの読者が出てくるところであり,確かに小説の主人公−作中の読者−それを読む読者である自分という構造はできあがるが,それが一体何であるのだろう。

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