グレン・ミード『雪の狼』
B−
Meade, Glenn. Snow Wolf. 1995. 戸田裕之訳. 二見書房. 1997, (二見文庫) 上下

 CIA対KGBというより,『ジャッカルの日』を典型とする,要人を暗殺しようとする側とその暗殺者を狩る側との戦いを描いた,いまどき珍しい冷戦物である。東西対立が始まったばかりの1952年から1953年にかけて,アメリカのCIAから送られた暗殺者がソ連に潜入し,それをKGBが捕まえようとする。暗殺者のロシア人アレックス・ステンスキーと同じロシア亡命者アンア・ホーレワは,ヘルシンキ,タリン,レニングラードと死体を残しながら潜入していく。一方ではKGBのルーキン少佐が追いつめていくという展開は,やはり読む者を引き込む。そして,結末近くで,意外な事実が明かされる。エンターテインメントとしてよくできているし,暗殺対象が大物であるから,両方とも必死になる必然性はある。また,ステンスキーにも個人的な理由があることになっている。しかし,冒頭部分でいかにも主役のような様子だったCIA要員は,最後には道具のように使われるし,それにカモフラージュのためと言いながらなぜアンナを連れていかなければならないかが疑問のまま残るというように,もう少し組み立てに改善の余地がありそうである。

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