クライブ・カッスラー『殺戮衝撃波を断て』
A−
Cussler, Clive. Shock Wave. 中山善之訳. 新潮社,1996. (新潮文庫)上下

 ダーク・ピットシリーズ第13作である。日本を舞台にしたドラゴンセンターあたりで,カッスラーももうだめかと思ったが,サハラ,インカと盛り返し,これも活劇としてノンストップで読むことができる。ダーク・ピットシリーズは,歴史的な事件で始まり,近未来にダーク・ピットが何度も酷い目にあいながらも,工夫と不屈の闘志とアメリカ的軽口で切り抜けて,奇想天外な結末に到るというパターンである。要するにホラ話とアクションという二本立てで読者へのサービスを心がけている。ソ連崩壊の後もしぶとく生き残っただけでも立派なものだ。今回は,南太平洋の島々とダイヤモンド産業,漂流,それに海中衝撃波,海蛇を組み合わせている。ピットとその相棒のジョルディーノ,サンデッカー提督などの常連と悪役の個性は際だっている。敵役のダイヤモンド王の考えていることが今一つわかりにくいが,話はテンポよく進んでいく。圧巻は,動力のないボートで船の通らない海に流されたピットたちの漂流であろう。海についての知識と細かな工夫と努力で切り抜けていくという場面は,著者が海に愛情を持っていなければ書けないだろう。今回は西暦2000年という設定になっている。サンデッカー提督は60歳を超えたという記述があるが,ピットの年齢は出てこない。これまでの話からいけば,軽く50歳を超えているはずなので,年齢を書けなくなったのだろう。スタミナからみると30歳代であるわけだが,今後は年齢不詳のままとならざるを得ない。

[索引]