リチャード・バウカー『上院議員』
Bowker, Richard. Senator. 1994. 藤田恵子訳. 東京創元社, 1996. (創元文庫)上下

 2期目の選挙戦を戦うマサチューセッツ選出の40歳代アイルランド系共和党上院議員を主人公とする一人称のミステリである。描かれるのは再選されるまでのトラブルだらけの選挙戦であるが,冒頭で恋人の女性ジャーナリストが殺され,その殺人事件の発見者となった上院議員が犯人を見つけだす。殺されるのが女性ジャーナリストであることは,『バースへの帰還』と同じである。異性関係と取材で知った秘密という多様な殺される理由を持っているので,被害者とされるのに便利な存在らしい。もっと集中して読めるかと思ったが苦しかった。対立候補との駆け引きであるとか,上院での取引であるとか,政界の裏面としては興味深い点が多い。しかし,登場人物が多い割にさほど魅力的な人物はいない。この主人公は,やがて大統領選に打って出ると考えられているが,これほどすねに傷を持っていてもよいものだろうか。さらに,明らかな殺人者が二人も見逃されるのは,問題であろう。

[索引]