J・H・コッブ『ストームドラゴン作戦』
A−
Cobb, James H. Sea Strike. 伏見成蕃訳. 東京,文藝春秋,2000. 547p. (文春文庫)

 シリーズ第2作である。近い未来を舞台にした軍事小説であり,このシリーズでの新技術の目玉となるのはステルス駆逐艦「カニンガム」,つまりレーダーで捕捉できない軍艦である。飛行機と違い船舶がステルスを装備するとどのような軍事行動ができるかが焦点と言えるだろう。しかしながら,魅力はそこにあるのではない。この「カニンガム」の艦長は30代半ばの女性アマンダ・ギャレット中佐である。ステルス艦「カニンガム」シリーズではなく,女艦長アマンダ・ギャレットシリーズと名付けるべきだろう。艦長ばかりでなく,情報士官,搭載ヘリコプタのパイロット,さらには「国家安全保障局長官」も女性である。さて,2006年に,中国に内乱が起こり,これに乗じて50年間準備を重ねてきて,最新装備を持つ台湾の国民党軍が中国本土に侵攻する。このあたりは妙にリアリティがある。反乱軍と手を組んだ台湾軍は北京政府を追いつめるが,そうなると核爆弾の使用の可能性が出てくる。中国沿海に派遣された「カニンガム」のギャレット館長の任務は,潜んだ中国のミサイル潜水艦の捜索と破壊である。潜水艦の一隻は,アメリカと共同作戦を行う日本の自衛隊の潜水艦により発見され,自衛隊は一発も打つことなく敵潜水艦を仕留めてしまうのは,著者のなかなかの配慮と言えよう。優秀な女性は決して間違いをしないが,ギャレットも判断を間違うことはない。海洋軍事小説では,困難な状況でアイデアで勝負する場面が必ずあるが,この艦長はアイデア豊富で,洞察力にも富んでいる。さらにそればかりでなく,度胸のあるところまで見せるのが最後のクライマックスシーンである。軍事技術や緊迫度の点では第一作の『ステルス艦カニンガム出撃』のほうが上だが,スーパーヒロインぶりはこちらのほうが上である。

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