ロバート・ゴダード『今ふたたびの海』
Goddard, Robert.Sea Change.加地美知子訳,講談社,2002.上下(講談社文庫)

 18世紀の英国の政界のスキャンダルである南海会社事件を中心とした歴史ミステリである。南海会社は,エンロン,ワールド・コム,リクルートなどを思い浮かべるような株価の急激な上昇と暴落で大勢が被害にあった危ない会社であり,ディヴィッド・リス『紙の迷宮』が取り上げている。
 主人公は,ウィリアム・スパンドレルという若い地図製作者で,例によって善良で人を疑うことを知らず,大小の悪党たちに散々脅され騙される役回りである。冒頭に地図があり,これによって,スパンドレルがオランダからローマまで旅し,また戻ってくるらしいことがわかる。南海会社の帳簿「グリーンブック」をそれと知らず,アムステルダムまで運ばされるのであるが,国王や政界の有力者の名までが記されているこの「グリーンブック」を巡って騒動が起きる。
 全体は二つに分かれ,前半は,スパンドレルのローマまでの旅で,後半は,ロンドンで右往左往する。前半は,比較的単純で,悪者どもが一挙に消滅する荒技があるにせよ,まあまあ早く読めるが,本当の主役であるウォルポールがスパンドレルをいたぶる後半は,事が複雑になり,読み終えようとする意志が強くないと止めたくなる。スパンドレルもウォルポールも現代人である。

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