奥田英朗『最悪』
講談社,1999. 397p.

 ひどい書名であるが,文章はしっかりしている。三人の主人公がいる。従業員二人の鉄工場主である川合信次郎がその一人。不良品を出し,娘の大学進学があり,周囲の住民から騒音について苦情を言われ,従業員の一人は精神不安定,そして,取引先が,新しい機械を入れるように言ってきて,その資金のために奔走しているうちに,神経が参ってしまう。都銀の支店に勤める22歳のOLである藤崎みどりは,いつも不機嫌である。支店の雰囲気がよくない。妹は家に寄りつかない。全行あげての行事の時には,酔った支店長に抱きつかれる。もう銀行を辞めようと思っている。三人目は,名古屋から出てきて,職もなく,パチンコで暮らしている20歳の野村和也である。
 この三人の運勢がどんどん悪いほうに向かっていく中盤過ぎまでは,快調である。特に,川合信次郎に続けざまにおきる災難と金繰りの部分は読ませる。下降している時には,悪いことしか起きない。終盤に至ると,なぜこの三人のことをよく知っていなければならないかがわかる。しかし,もっと意外な結末を期待しても無理はないのに,急にトーンダウンしてしまうのは何故だろうか。本当は,もっと別な解決があったのではないかと疑いたくなる。

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