北村薫『リセット』
B−
新潮社,2001.362p.

 『スキップ』,『ターン』に続く「時と人」三部作の第三作である。第一部は,第二次大戦中,芦屋に住み,生徒の家には一人残らず電話のある甲南高等女学校に通い,勤労動員で神戸の飛行機工場で働く女学生の生活ぶりだが,戦後生まれが戦前の日常を描くのはなかなか難しい。第二部は,1950年代の男子小学生の生活であるが,こちらは作者の自伝に近いのであろう。「懐かしい」というほかはない。
 フライ返しから,アグネス・ザッパー『愛の一家』,『会議は踊る』の主題歌『ただ一度だけ』,飛行艇,獅子座の流星群など豊富な小道具があり,空襲に列車事故と筋立てもうまく考えられている。しかしながら,さほど感動を呼ばないのはなぜだろう。二つの魂が転生していくというのは,三島由紀夫の『豊饒の海』があるし,最近ではジェイムズ・ロング『ファーニー』があった。列車事故では佐藤正午『Y』があるというように新鮮味が乏しい。転生だけでは弱いということだろう。『スキップ』にあったような強さはなく,時間の非条理性は希薄で,感傷的すぎる。

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