ブレンダン・デュボイズ『合衆国復活の日』
B−
Resurection Day.Dubois, Brendan.野口百合子訳.扶桑社,2002.(扶桑社ミステリー)上下

 フィリップ・K・ディック『高い城の男』やレン・デイトン『SSGB』のように,歴史の転換点で別の方向に進んだらこうなっただろうというSFである。舞台はアメリカ,転換点というのは1961年のキューバ危機である。米軍はキューバに侵攻したが,キューバとソ連が戦術核兵器を用いたので,ソ連全土に核攻撃を行いほぼ全滅させるが,報復されてワシントン,ニューヨーク郊外,サン・ディエゴが壊滅し,政府や議会を失ってしまう。それから10年経った1971年,米国は,二流国となり,戒厳令がしかれ,新聞は検閲下にある一方,大英帝国が復活しつつある。主人公の元特殊部隊員で,現在は,ボストンの新聞記者である主人公のカールが,ある殺人事件を取材するところからはじまる。殺された老人は,ケネディ政権で防衛連絡将校で,核攻撃を受ける前に,重要な文書を持ち出して隠していた。カールは,それを追う一方,新聞向けのマンハッタン見学行に加わり,立ち入り禁止区域に住み,現政府に抵抗する人々がいることを知る。
 限定的な核戦争が起きるわけだが,それでも全世界に及ぶはずの核被害が過小に過ぎないかという点,逆に,三つの都市が消滅したらアメリカが二流国になってしまったという点など,もともと無理があるのは仕方ないことだろう。アメリカを弱い立場においてみて,そこでアメリカの底力を見せて,アメリカ人を鼓舞しようとするわけだが,その底力がよくわからないままで終わる。もう一つの,戦争を始めたと誤解されているケネディ大統領の汚名をすすごうというのも,インパクトは乏しい。

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