デイビッド・L・リンジー『ガラスの暗殺者』
Lindsey, David L., Requiem for a Glass Heart. 山本光伸訳. 新潮社,2000.(新潮文庫) 上下

 冷戦時代のKGB対CIAの変型で,麻薬取引を独占しようとするロシアマフィア対FBIという図式になっている。しかしながら,実際の主人公は,ロシアのマフィアの首領の愛人イリーナであり,対するFBIのおとり捜査官も女性であるという点が新しい。そして,女性の暗殺者を造型していることも確かである。裏世界で富を築いた人物達がどのような家に住んでいるのかといったことや,尾行を巻いたり,盗聴する技術にかなりの部分が費やされている。展開は読めないのであるが,結末は,意外にもどんでん返しなどないままに終わってしまう。ロシアマフィアは,病的で冷酷な人間のはずなのであるが,かなり間抜けである。FBI女性捜査官もただただ成り行きに流されるだけであった。

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