レジナルド・ヒル『甦った女』
A−
ill, Reginald. Recalled to life. 嵯峨静江訳. 早川書房,1997. 421p. (ハヤカワポケットミステリ)

 1963年にヨークシャーの貴族の館で起きた殺人事件の再調査をダルジールが勝手に進めていくという話である。次から次へとスキャンダルが暴露されていくが,事件そのもののはあまり興味深いものではないし,すっきりと解決するわけではない。登場人物はみなしたたかであるが,その中を厚かましく,態度も行儀も評判も悪いが,無類の洞察力を持つダルジール警視が動き回る。今回は,アメリカにまで出張するが,到着直後の活躍振りがものすごく,新聞に「クロコダイル・ダルジール」と書かれる。ヒルのダルジール・パスコーものの魅力は,ダルジール=ヒルの辛辣でひねくれたせりふと「当時の彼はまだ若い刑事で,野心的で仕事熱心で,一と一を足して三にすることはできたが,半分と四分の一と三分の一を足して一にすることのほうがはるかにもっと重要だとはまだ気づいていなかった」というようないかにもっともらしい言葉や「イギリス上流階級に属するかどうかの本当の基準はその血統にあるのではなく,じつはその皮肉の辛辣さにある」であるといったような警句で満ちている。事件は複雑で,登場人物が多いが,もはや,真犯人は誰だかもわからない。読んでいるときの楽しさで成り立っているミステリである。

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