エリザベス・ジョージ『消された子供』
A−
George, Elizabeth. In the Presence of the enemy. 天野淑子訳. 早川書房,1999. (ハヤカワ・ミステリ文庫) 上下

 アメリカ人作家が書くイギリスを舞台としたミステリの第8作目。主人公のリンリーはアシャートン伯爵であり,その助手の女性刑事ハヴァーズは,労働階級に属し,老人性痴呆症の母親をかかえている。保守党下院議員で内務次官を務める女性議員ボウエンの十歳になる娘が誘拐された。この子の父親は,反保守党の大衆紙の編集長ラックスフォードであるが,そのことは,二人以外は誰もしらない。ボウエンは,一人で子供を産み,レストラン経営者と結婚し,政界で出世してきた。ラックスフォードもファッションモデルと結婚し,男の子がいるが,誘拐犯から「第一面を使って第一子を認知せよ」という手紙が届く。どちらもそんなことをしたら身の破滅である。こうした救いようのない状況の中で事件は進行していく。相変わらずの陰鬱な,軽口もない雰囲気の中で,登場人物のエゴがむき出しになり,読み進むのが苦しい。しかし後半は謎解きであり,半分を過ぎれば結末が待ち遠しい。作者は上昇志向の女性議員に苛酷な罰を与えている。

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