ビル・S・バリンジャー『煙で描いた肖像画』
Ballomger, Bill S. Portrait in Smoke. 矢口誠訳.東京創元社,2002.374p. (創元推理文庫)

 1950年の作品である。舞台はシカゴで,ダニー・エイプリルという若い男が,祖父の遺産で,集金代行業の権利を買いとる。これまでの記録を調べていたら,かすかに出会った記憶のある娘の写真と新聞記事が出てきた。10年前の1940年にこの娘,クラッシー・アルマーニスキーは,地元の小さな新聞社の主催する美人コンテストで優勝した。写真が頭から離れないダニーは,クラッシーの住所に行き,消息を聞く。新聞社,専門学校,働いていた会社など,クラッシーの10年間の軌跡を辿っていく。
 誰もが認める美貌と,少しばかりの野心を持った若い娘が,第二次大戦を挟んだ10年間の間に,名を変え,外見も変えながら,シカゴで徐々にのし上がっていく部分が中心である。クラッシーは,それほど計画的でもなく,行き当たりばったりのところがあり,また,途中で本人が出てきてしまう。現代の作家なら,宮部みゆき『火車』のように,調査から行動のみを明かにし,最後に登場するように仕組むだろうし,ダニーはもっとストーカーらしく描くだろう。

[索引]