ロバート・ゴダード『千尋の闇』
Goddard, Robert. Past Caring. 1988. 幸田敦子訳,東京創元社,1996.(創元推理文庫)上下

 1908年の英国の内閣で32歳の若さで内務相に抜擢されたストラフォードが,なぜ婚約者を失い,政界から追放されたのかという謎から始まる。読み始めれば最後まで読み続けるはめになるのは確実。主人公は,「軟弱でたるんでて,自己憐憫に酔いしれて」いる離婚歴があり,スキャンダルを引き起こしたことのあるケンブリッジ出の歴史教師であり,ストラフォード失脚の謎を探るうちにそれに端を発した現代の事件に巻き込まれていく。全体の四分の一ほどは,ストラフォードの2編に分かれた手記であり,この手記の部分自体が第一次大戦前の英国政界,サフラジェットと呼ばれる戦闘的婦人参政権運動家,それに主人公の恋愛を描いた小説となっている。後半には,小悪党が何人か出てきて少しだれるが,立派な老婦人と成長した主人公の交情から生まれる意外なクライマックスが用意されている。

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