ロバート・ゴダード『日輪の果て』
Goddard, Robert. Out of the Sun. 成川裕子訳. 文藝春秋, 1999. (文春文庫) 上下

 主人公ハリー・バーネットは五十歳代後半である。アル中気味でロンドン近郊のガソリンスタンドで働いている。自分には覚えのない息子がいることを知らされ,しかもその息子ディヴィッドは,病院で昏睡状態にあるという。33歳で,数学者だったディヴィッドがこうなった理由を探っていくうちに,ハリーは,アメリカまで出かけて離れ業をしなければならなくなる。企業の陰謀をうち砕くために尽力する。しかし,真相は,さらに奥に隠れていた。
 高次元や2050年までの社会の予測といった科学的なテーマがあり,いくつかのアクション場面がある。主人公は,「自己憐憫」というものに陥りやすい人物であるが,そのたびに気を奮い立たせて真相に迫っていく。これまでのゴダードの作品では,常に過去の長い影に覆われていたが,これは単なる現代物である。そうなると,この程度の冒険小説では,インパクトは大きくない。結末近くの事件で戦慄しなければならないのであろうが,とてもそうはいかない。

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