桐野夏生『OUT(アウト)』
B+
講談社,1997. 447p.

 東京郊外の武蔵村山市の弁当工場で働く43歳の主婦である香取雅子が主人公である。働くといっても午前0時から午後5時半までの夜勤であり,コンビニエンスストア用の弁当をベルトコンベア方式で何千食も作る仕事である。他に,3人の仲間がいて,4人で要領よく立ち回っている。雅子は信金に20年間勤めていた。現在は,サラリーマンの夫と高校生の息子がいて,一戸建てに住み,自分のカローラに乗っている。しかし,夫は家に寝るために帰ってくるだけで,子供は学校には行かずアルバイトをしており,車は古ぼけており,家庭での安らぎはない。他の3人の家庭も崩壊しつつあり,いずれも昼間よりも25%高い時給のために夜勤をしている。仲間の一人が,夫を殺した。雅子をリーダーとして,殺人を隠蔽する工作が行われる。その結果,平凡な日常を送る女たちが,犯罪を重ねていく。そこに,「毀れた」変質者が現れて脅迫してくる。これは,『不夜城』のように犯罪小説であり,謎があるわけではない。謎があるとすれば,主人公の香取雅子の内面である。高度成長以後の日本人の心のある種の荒廃を象徴しているようであり,物欲はなく,金銭にも家族にも執着しない。特殊といえば特殊な人間であるし普遍的でもある。こうした新しいヒロインを創造した点と救いのない点が,『98年版このミステリがすごい!』で1位になった理由なのだろう。登場人物一人一人が丁寧に描かれており,特に誰がみても嫌いになる邦子という同僚がいい。描写もリアルであり,先のわからないミステリであることは確かである。ただ,『不夜城』同様,続きが読みたいとは思わない。

[索引]