荻原浩『なかよし小鳩組』
集英社,1998. 318p.

 30代,離婚経験があり,大手広告代理店を辞めて,小さな広告会社に勤める禁酒禁煙を繰り返すコピーライターが主人公である。この広告会社の仕事が全くなくなり,ようやく掴んだのが,やくざの小鳩組のCIだった。組長が小鳩源六なので,小鳩組なのであるが,この組長の思いつきでコーポレントアイデンティティに乗り出したわけである。断ることもできず,小鳩組のマーク,イベント,テレビコマーシャルのために努力するというのが大筋で,ここに別れた妻のもとにいるサッカーの好きな7歳の娘が絡むという単純な話である。怖くてしたたかなやくざに振り回されながら,CIが進行していき,CIや広告業の仕組みもわかるようになっている。展開はスピーディで,飽きないで最後までたどり着くことができる。やくざを題材にしたユーモア小説という点では,小林信彦の「唐獅子牡丹」シリーズを思い出させるし,やくざと中年と娘という組み合わせは,浅田次郎「プリズンホテル」シリーズを思い浮かべるので,読みながら二番煎じという感じから逃れることはできない。見張り番の組員と一緒に飲んでいたら,サラリーマンの集団にからまれ,主人公がやくざよりもやくざらしい反応を示すところにリアリティがある。

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