ドナルド・ジェイムズ『モスクワ2015年』
A−
James, Donald. Monstrum. 棚橋志行訳. 扶桑社. 1999. (扶桑社ミステリー) 上下

 主人公ヴァジムは,内戦が終わった後,ムルマンスクからモスクワに転任となった警察官である。妻は,内戦で敗退した無政府主義者軍の女性師団の将軍で,現在は潜伏中である。息子は戦乱の中で死んだとされている。赴任したモスクワでは,連続殺人があり,その犯人は「モンストルム」(怪物)と呼ばれている。ヴァジムにはもう一つの秘密の仕事があり,その便宜のためにモスクワに呼ばれた。しかし,ヴァジムは,有能な部下とともに殺人犯の捜査を続けていく。ロシアの未来には何でもあるだろう。登場人物は,みな個性的である。ロシア的な混沌の中で物語は進んで行くが,最後の立て続けのクライマックスにいたると家族の捜索と殺人犯の捜査,それに政治情勢の三つについての伏線が巧みに張り巡らされていたことを知ることができる。

[索引]