宮部みゆき『模倣犯』
B+
小学館,2001. 上下

 この連続誘拐殺人事件は,3部から構成されている。第1部は,被害者の家族,捜査側から容疑者の死まで。第2部は,犯人の側からみた事件,そして第3部は,その後の状況から真犯人がわかるまでであり,最後の対決場面から類推すると,この場面を目指して周到に構成されていることがよくわかる。主人公は,多分,発見者の高校生塚田真一,被害者の祖父で72歳の有馬義男,ルポライターの前畑滋子32歳と考えられる。上巻の半分ほどまでは,事件の進行の紹介と主な登場人物の紹介であるが,だらだらと長く,ここで止めてしまう読者がいても不思議はない。横山秀夫ならもっとてきぱきと片づけるだろう。しかし,ここを乗り切れば,さすがに最後まで一気に読ませる力がある。現代の様々なタイプの若者を登場させその危うさ,無情な世間のために被害者の家族が受ける仕打ちや冤罪をこと細かく描いている。犯人は異常で残忍であり,被害者の家族は,徹底的に痛めつけられる。かなり多数の人々を平然と死なせ,あるいは不幸にする。たいへん生真面目であり,有馬義男が著者の主張を代弁する。この著者の他の作品でも同様であるが後味はよくなく,ところどころで強く不快感を感じる。

[索引]