逢坂剛『燃える地の果てに』
B+
文藝春秋,1998. 725p.

 背景は,1966年にスペインの地中海側の小村の上空で起きた,B52戦略爆撃機と給油機の空中衝突事故である。この事故でB52に搭載されていた核爆弾4基が落下した。うち3基は地上で発見されたが,1基は海中で見付かり,引き上げられた。しかし,地上に落ちた核爆弾は,放射能汚染を引き起こし,海中で発見された爆弾は本物かどうかという疑惑が未だに残っている。この村には,たまたま二十二,三歳の日本人でギタリストの古城が,村に住むギター製作者ディエゴにギターを作ってもらうために滞在していた。古城やディエゴ,通信社の記者,村人,スペインのフランコ政権下の治安警備隊,それに必死に回収作業を行う米軍の将校,それにB52の空中給油の偵察のため送り込まれているソ連のスパイなどの事件後の一日一日が丁寧に描写される。もう,一方では1995年に,日本の五十歳を過ぎた酒場の亭主とイギリスの30歳すぎの女性ギタリストがディエゴの消息を求めてこの村を訪れる。前半がいささか長く,この半分でもよいのではないかと思うが,作者が読者を騙す大団円が待っている。スペインの村の生活がリアルに描かれているわけではないが,冷戦構造の中での米ソ関係,さらには,米国と米国に基地を貸しているスペインの右翼政権との政治的な関係とそれがもたらす影響,放射能汚染が引き起こす結果を極めてわかりやすく説いている。ともかく,誰も予想できない結末である。

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