真保裕一『密告』
B−
講談社,1998,346p.

  主人公は,川崎の警察署に勤める30歳を少し過ぎた警察官である。高校の時はラグビーで花園に出場し,警察官となってからは,射撃の選手として,オリンピックに出場寸前までいった。その時のライバルが上司となっている。8年前に,この上司の過失を新聞社に密告したことがある。この上司に対して業者との癒着についてまた密告があり,自分が疑われることになった。身の証しを立てるために,かなり乱暴なやり方で捜査を続けていく。さすがに読み始めれば,最後まで読ませる力がある。ディック・フランシスのように展開する。主人公は結末近くで痛めつけられる。しかし,『奇跡の人』同様,この主人公の行動には感情移入しがたいものがある。ただもう身勝手に相手のことは考えないで突き進んでいくが,その動機にもいささか疑問が残る。このような人物が,まわりから警戒されたとしても仕方があるまい。それにピストル射撃を背景としながらも,それをうまく生かしているとは言い難い。

[索引]