コリン・ハリソン『マンハッタン夜想曲』
Manhattan Nocturne.Harrison, Colin.笹野洋子訳.講談社,1993.662p.(講談社文庫)

 主人公は,ニューヨークの新聞社のコラム記事担当の新聞記者である。優秀な外科医である妻と,幼い娘と息子がいる。パーティで会った美女から誘惑される。廃ビルで無惨な死体となって見付かった若手映画監督の妻であり,遺産を受け継ぎ,豪華なアパートに住み,間もなく再婚するという。元の夫の残したビデオテープを観て欲しいと頼まれる。理由はよくわからない。コラムを書きながら,殺人事件の調査を行っていくうちに,やりきれない真相を知ることになる。新聞社の社主が大きな関わりを持つが,これはルパート・マードックをモデルとしている。
 平和で幸せな家庭を持つ主人公の煩悶はわからないでもないが,真相の究明に何故これほどのめり込むのかがよく伝わらないし,偶然に撮られたスキャンダラスなビデオテープが3本もあるというのも解せない。主人公の住む木造家屋や豪華なアパート,大金持ちから裏の世界の人々までと現代のマンハッタンの様々な側面の紹介という点が取り柄である。

[索引]