ジェフリー・ディーヴァー『静寂の叫び』
B+
Deaver, Jeffery. A Maiden's Grave. 1995. 飛田野裕子訳. 早川書房,1997. 462p.

 FBIの人質解放交渉を描いたミステリである。カンザス州の重罪犯刑務所から脱走した3人の男が,人質をとって野原の中川に面した場所にあるもはや使われていない食肉加工工場に立てこもった。事件が起こって1時間半後には,警察官に囲まれた工場近くにFBIの危機管理チームが到着する。そのリーダーがアーサー・ポターで50歳がらみ,20年以上の経験がある。情報担当,通信担当,心理分析担当の補佐官とともに犯人と交渉を始める。人質は,スクールバスで通りかかった聾学校の5歳から17歳までの女子生徒と教師10名である。犯人と人質についての情報をできるだけ集め,交渉を引き延ばしつつ,州の人質救出チームの干渉を排除し,マスコミの勝手な行動を見張らなければならない。また,ストックホルム症候群も複雑な形で表れる。また,聴覚障害者のコミュニケーションに様々な方法があることを知ることができる。こうした,交渉の方法とそこで起きる問題を要領よく描いているという点で,よくできた作品である。ただ,ボードに「約束」と「嘘」とを書いていくといったいかにもマニュアル的な説明や,ポターと人質の一人であるメラニーの関係が,多少不自然である。人質が聾唖者であるのは,交渉という騙し合いとの対比なのだろうか。最後の一ひねりはB級映画のよう。

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